□ひらきなおり
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久々の一日休暇を利用して、ちょっと天国までお出かけしてきた。


桃太郎くんが栽培したという桃は相変わらず美味しかった。


どんどん食べていいよ、なんて白澤様が言うものだから、桃太郎くんが採ってきた分を全部平らげてしまった。

きっと桃の木1本分はあったに違いない。



いろいろとお話して、桃まんをお土産に貰い帰路についた。桃まんの甘い香りが鼻をくすぐる。



桃太郎くんも白澤様も相変わらず優しかったなあなんて考えながら白澤様のお店から少し歩いた所でふと足を止めた


「あれ?」



向こうから歩いてくる、黒い着物を着た人物をみつけた。
近づいてくるにつれ、それが自分の上司の鬼灯であることに気付いた。


「鬼灯様?」

「おや桜、こんな所にいましたか」

いつもの口調で、鬼灯様は真顔のまま言う。


「はい。…今から白澤様のところになにか用事でもあるのですか?」

「あ、いえ あの白豚には用はありません」

「?、それじゃあなんで天国に?」

「桜を迎えにきました」


今さらりと白豚って…
え、迎え?


「さ、帰りますよ」

「え ほんとに迎えに来てくれたんですか?」

「はい」

「一応聞きますけど、鬼灯様仕事中なのでは?」


「そうですけど」


第一補佐官、なにしてんだ。


「早く帰りましょう!鬼灯様がいなくては地獄が傾きますよ」


「ああ、大丈夫ですよ。桜の迎えも仕事のうちにいれてます」


「……………そ、そうですか」



もう一回言おう
なにしてんだ第一補佐官。








「甘い香りがしますね」

地獄へと通ずる道を歩いていると鬼灯様が話しかけてきた。
あ、くんくんしてる。
可愛い…。


「白澤様からお土産に桃まんを頂いたんです」

「捨てなさい」

「なんてこと言うんですか」


白澤様の名を出した瞬間眉間にしわがよった。相変わらず白澤様が嫌いみたい。




「食べますか?」

「…ようやく私に身を委ねる気になりましたか」

「どんな曲解ですか。私じゃなく桃まんのことです」

「それなら結構です。あいつが作ったものなんて何かが入っているかも分かりません」

「入っているのは餡子だけですよ」


紙袋から桃まんを1つ取り出し、まだ少し温いそれを2つに割いて鬼灯様に渡す。




「なんだかカップルみたいですね」

「どの辺がですか」


「たまには素直になりなさい」


「いやです」


「どうしてです?」


どうして、と言われても…。

桃まんを咀嚼しながら考える。
考えてみれば私は鬼灯様に素直じゃない、のかも。むしろ少し冷たい気がする。
うーん、と小さく唸ると鬼灯様は少し首を傾げて覗きこんできた。


「なんというか、鬼灯様に素直になったら、どんどん甘えてしまいそうな気がするんです」


「桜のデレですか。萌えますね」


「ちょっと、真剣に話してるのに変なこと言わないでください」



まったく。一瞬でも真剣に考えた私がバカでした。




「そういえば、どうして鬼灯様は私が天国に出かけてるって分かったんですか。私、鬼灯様に出かけるって言ってませんでしたよね」

今日が休み、とは事前に言ったものの天国に出かけると言った覚えがない。

餡まんをもきゅもきゅと食べている鬼灯様。あ、頬に餡子ついてます。
ごくり、と飲み込んで話すあたりさすがオカン節を心得てるだけはあるなあ




「桜が行くところなんて、彼氏として把握しておくのは当たり前のことですよ」


「誰が彼氏ですか」


「桜がいるところに私有り、です」

「さらっとストーカー発言ですか!?」




(上司に向かってストーカーとはなんですか)



end

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