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□窓で隔たれど
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「…寒い。」
ぶるっと肩を震わす。
秋の中頃といえども、夕方になれば頬を撫ぜる風は十分に冷たさを帯びていた。
こんなに寒いのなら、羽織でも持ってくるんだった、と今更ながらに後悔する。
桜は偵察の帰りだった。
黒縄地獄まで赴いた後、そのまま帰宅していいと上司の鬼灯に言われたのだが、仕事場に読みかけの本を忘れて来たのをふと思い出した。
置いておこうかとも考えたが、なにしろ同僚から借りたものなのでそのまま仕事場の机上に放置というわけにもいかない。
取り立てて律儀な性格ではないのだが、なんとなく本の内容が気になったので取りに帰った次第。
それに何より、
(もしかしたら、鬼灯様がまだいるかもしれない…)
一番の理由はこれだ。
鬼灯は今日徹夜だと恐い顔をしながら桜に言っていた。
だからまだ仕事をしているのは確実だ。……夕方だから、仕事場にいるかどうかは危ういのだが。
鬼灯が徹夜じゃなくてもう帰っているとするのなら桜はわざわざ仕事場になんか寄らない。むしろ直帰する。
(鬼灯様まだ居るといいなぁ)
真剣に仕事をこなす鬼灯様を想像すると、なんだか笑みが零れた。
そうだ、手土産に菓子でも買っていこう。
疲れた時には甘いものが一番だ。