1
□慣れない人
1ページ/1ページ
閻魔大王の補佐官というだけあって、仕事の量は絶えず膨大だが、それらを持ち前の冷徹とカリスマ性でサラリとこなす。
そのためか部下や上司からの信頼もあつい。
男の獄卒がすれ違えば、尊敬の眼差しを向けるし女性がすれ違えば頬を赤く染めるものまでいる。
その上綺麗な顔をしているときた。
そんな鬼神の部下といえば誰もが憧れる職位置だ。
当の職位置に置かれている彼女、桜は例外として。
「えぇと…これとこれが天国からで、これとこれが阿鼻と黒縄からの申請書なので判子をお願いします」
「わかりました」
巻物、書類を上司、鬼灯に渡す。
仕事柄鬼灯のもとに訪れることは少なくない。
現にこうして書類なんかを届けにきているのだから。
「今日も忙しいみたいですね。鬼灯様の仕事部屋を訪れる前に法廷を見たら相変わらずたくさんの人がいました。」
「えぇ。ここ数日は亡者がピークで多いですからね。」
言いながら鬼灯様は書類に目を通す。
「鬼灯様、ちゃんと休めてますか?」
「ぶっ倒れない程度には休んでます」
「ふふっ 鬼灯様が倒れたら大変ですもんね」
こうして笑って言えるが、実際に鬼灯様が倒れたらそれこそ地獄だ。
地獄の仕事が殆どといっていいほど詰まってしまうだろう。
そんな人の心配をよそに、鬼灯は呟く。
「桜が私にキスをしてくれるのなら疲れは吹っ飛ぶんですけどね」
「しませんよ」
「即答ですか」
当たり前です。
御覧のように鬼灯様は私になにかと託けてはセクハラ紛いな事を発言してくる。
初めて言われた時は、恥ずかしさのあまり顔が真っ赤になっていた。
だけど今は言い返すくらいはできる。・・・恥ずかしいのは変わらないけれど。
「とりあえず!身体は小まめに休めてくださいね」
「桜の笑顔を見れば、疲れなんて吹っ飛びますよ」
「な…っ」
またこういう恥ずかしいことを…。
じわりと頬に熱がこもるのが分かる。
「どうしました?顔が真っ赤ですよ」
鬼灯様が顔を覗いてくる。
私は持っていた巻物を鬼灯様に押し渡す。
「し、失礼しました!」
深く急いでお辞儀をして部屋を出る。
顔が真っ赤。
いつもはセクハラなことを言うのに…唐突に真面目な顔であんなことを言うから…。
「心臓がもたない…」
壁に寄り掛かって息をつく。
この職場に着くまで男にあまり免疫がなかったのもあり、相変わらず慣れない。
鎮まる心臓に再び息をつく。
(仕事はできる。信頼も文句なし。容姿良し。しかし、性格に難あり)