恋話あります

□『純情異星交友』
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「好きだっ!」
シンプルすぎる告白をしていた。
直前まであれこれ考えていたのに、彼女が屋上のフェンス越しに遠くを眺めている姿を目にした瞬間、頭の中が真っ白になった。
呼び出しておいて遅れてごめんとか、なんとなく察しているんじゃないかと思うけど、なんて前置きはぶっ飛んだ。ついでに後に続ける言葉も出て来なくて、俺は屋上の出入り口に立ち尽くし、ある意味出口を封じて立っていた。
彼女は驚いたように振り向き、強い風のせいもあって、長い黒髪が踊る。もちろん制服も風に煽られて絶妙な感じにはためいていた。
いい眺めだ。
晴れた日にはこの屋上から遥か遠くに富士山が見えるが、そんなものよりよほど絶景である。
俺は視線の先を悟られぬよう、恥じらうふりをして目をそらした。
彼女の名前は天星悠灯(あまぼし・ゆうひ)。腰まで届く綺麗な黒髪に、白くて小さな顔をした美少女である。
黒目がちなやさしい眼差し、常に微笑みを浮かべているように感じる穏やかな顔立ち、平均より少し高いくらいの身長。全体的な印象は清楚で可憐で品性良好なご令嬢といった所だろうか。派手さはなく、目立つ訳でもないが、ふと目が止まって見惚れてしまう。
いや、俺だけの話じゃなくて。
「えっと、岡谷くん……だっけ?」
天星さんが尋ねてきた。
覚えられてないー!?と内心で衝撃を受けていたが、俺はぎくしゃくと頷いた。
春のクラス替えで同じクラスになって、早5ヶ月。間に夏休みを挟んだとはいえ、今は9月。二学期である。クラスメイトは40人ちょいかけほどだし、名前くらいは覚えているものではなかろうか。
むしろ覚えてないのは顔か?顔と名前が一致しないのか?教室で見たことある気がするわ、たしか岡…大岡……岡谷?みたいな疑問符なのか!?
……よし、ひとつだけはっきりしたぞ。これは間違いなく「ごめんなさい」コースだ。それ以外の何ものでもない勢いで大決定だ。何しろ覚えられてないしな!
覚悟して、うつむいて、俺は彼女から目をそらした。
「や、やっぱり突然すぎたよな。ごめん」
覚悟したら言葉が出てきた。
そうだ。俺は本来おしゃべりだ。多弁だ。むしろしゃべりすぎだ。
「ううん、驚いたけど――気持ちは嬉しいよ」
は、ですね。ああ、はい。お約束ですね、わかってたけどさ!
「でもきっと本当の私を知ったら、そんなこと言ってくれないよね」
「うん、わかってたから気にしないで……あれ?今なにか言った?じゃなくて何を言った!?」
お約束を外されて俺は戸惑った。ここはなるべく爽やかに撤退して、悪あがきだろうと好印象を与えておきたかったのに、予定と違うんですけど。
天星さんは俺ではなくフェンスのほうを向いて、緑の金網に額をあずけ、地上を見下ろしているようだった。
細い肩が寂しげで、小さな背中が頼りなくて、ふられた直後だというのにドキリとした。
「ほ、本当の私って?」
「きっと知ったら……二度と声もかけてくれなくなるよ。だから言いたくないんだけど」
「伝説の裏番!?」
何故かそれが真っ先に思いついた。なんかこう、夜な夜なストリートファイト?それは近づきたくないな。遠くから眺めるのはアリだけど!
俺の反応が面白かったのか、天星さんが小さく吹きだす。……うん、なんで裏番なのか俺も問いたい、俺自身に。
「ううん、もっとスゴイよ?」
「えっ、もっとスゴイ!?じゃあストリートファイター!?格闘神話が始まってる!?」
俺の脳内では制服で戦う天星さんの姿が再現され始める。うなる拳、振り上げられる美脚、服が破れて敵(何故かやっぱり美少女)と組んず解れつ……
落ち着け、俺。どこの格闘漫画だ!彼女のどこに戦士らしい筋肉がついてるんだ!いやしかし、気功の達人という設定ならイケる!格闘漫画のヒロインは華奢な美少女が多いし!
なんて妄想を暴走させていたら、天星さんが言った。
「うん、岡谷くんには、見せちゃおうかな」
「えっ、何を!?ってか天星さん、何故制服のボタンを外してるの!?」
我が校の制服は男女共にブレザータイプだ。今はまだ夏服で、白いブラウスにスカートという薄着である。つまり彼女はブラウスのボタンを外し始めたわけで。上から順に外しているということで。
戦闘準備か!?と一瞬思ったものの、天星さんは第二ボタンまで外し、白い肌どころか白い下着が……!!ブラウスの下に戦闘服が隠れている可能性もなくはないがしかし、アレはそういうモノではないような気が……!
俺は背後のドアに張り付き、彼女から目を離すことも出来ずに、天星さんを見つめていた。
これはもしや天星さんは露出狂という新たな設定か!?でもそれは嬉しいので却下だ。声をかけないどころかぜひお近づきになりたい……!
じゃあ何だ。服の下に何があるというのか。
実は男だった。
……却下。大却下。事実であろうと絶対却下。そんな設定は認められない!でも男主人公が女装して周囲を欺く話とかどこかで見たよな。男の娘とかな。
でも俺は認められない。男は嫌だ。新たな世界に目覚める気などない!
などと半ば現実逃避しているうちにブラウスのボタンは全て外されてしまった。天星さんは恥ずかしげにかきあわせている。
「見てて。これが、本当の、私なの」
彼女はそう言いながら、ブラウスを開いた。
そして俺は――衝撃の事実を突きつけられて、気を失った。
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