その日は朝から雨で、仕事も暇だった。

女が数人集まるとお喋りに花が咲く、とは世の中の一般論。
私の職場も例外ではないようで、休憩中のパートのおばちゃん達はお喋りに夢中になっていた。

「ほら、あんたもお菓子あるからこっちおいで!」

小腹が空いた時間帯には魅力的過ぎる誘い文句に、ほいほいと私も参加することにした。

「うわ、甘栗甘のみたらし団子」

やったね、と団子にかぶりつく私の周りでは、やれ旦那がどーした、姑がどーしたといったとりとめのない話題が飛び交う。そしていつしか何がきっかけだったかわからないが、我が木ノ葉隠れの里の忍の話になった。おばちゃんの話題の飛躍の仕方は半端じゃない。

「忍と言えばさあ、アレあるじゃない、なんかホラ、あだ名?みたいなやつ」

「ああ、木ノ葉の黄色い閃光!とかね」

「ああいうのって誰がつけるのかしらね」

「ソコはほら、アレよ、やっぱりそういうのがついてこそ一人前って感じじゃない?」

(アレとかソレとかざっくりした会話で結構通じちゃうもんだなー)

もぐもぐと団子を咀嚼しつつ発言するおばちゃん達をいちいち目で追う。しかし年の功というやつなのか、皆意外と忍者さんに詳しいもんだ。

「あと聞いたことあるのは…」

「木ノ葉一の技師、ってのもあるわね」

あったあった!とはしゃぐおばちゃん達のテンションに私はどんどんついていけなくなる。

しかし“木ノ葉一の技師”とはなかなか凄いなあ。きっと熟練のおじいちゃん忍者に違いない。だが果たしてヨボヨボのおじいちゃんが分身してたくさん増えても戦力になるのかちょっと疑問だ。

「でもその人コピー忍者とも言われてるらしいじゃない」

私の頭の中ではヨボヨボのおじいちゃんがコピーをとっている。が、さすがにこのイメージは間違っているだろうからやはり私は黙ったまま次の団子に手を伸ばす。

「あら、その人なら他にも写輪眼の…」

「おーい、誰かおつかい頼むー」

盛り上がるおばちゃん達の会話を遮るように被せられた上司の言葉に、私ははーいと大きな声で立ち上がる。
忍さんの話も聞きたいけれど、皆楽しそうにお喋りしているし私が行くのが一番良いだろう。そして「みたらし団子残しておくからね」、と言ったおばちゃんにとびきりの笑顔で頷いた。




おつかいを終えた帰り道、傘に響くのは意外と楽しくなる雨の音。まだやみそうにないな、と考えていると、ふと先程の話を思い出した。

「木ノ葉一の技師、かー」

なんとなく、口に出してみる。
たまらなく語呂がいいわけでもないがなんだか単純にその響きが気に入っていた。

「あれ、意外。そういうの知ってるんだ」

「はたけさん!偶然ですね」

ひょっこりと現れたのはおとなりさんだった。隣にくるまで気付けなかったのは忍だからか、それとも雨音が邪魔したからか。

「今おつかい帰りなんですけどね、さっきまでパートのおばちゃん達が忍さんの話をしてて」

「で、なんで木ノ葉一の技師?」

「そういうあだ名?がついてる人がいるって」

「へえ」

はたけさんは微笑んでいるのかニヤついているのか判別しにくい表情で、けれどどこかご機嫌に見えた。

「ねえはたけさん、その人ってどんな人?やっぱり忍さんの間ではかなりの有名人だったりするんですか?」

「有名…ま、そこそこなんじゃないの。どんな人かはそのうち、ネ」

「結構おじいちゃん?」

「…怒られるヨ、まだ若いって」

なあんだ、と、呟いたところではたけさんをちらりと見上げた。

「はたけさんは、なんかないんですか?」

「ん?そういう通り名ってこと?」

頷くと、はたけさんはうーんと傘を持ったまま腕を組んだ。

「あることはあるけど…」

「ほんとに!?教えて下さいよ!」

食いついた私に目を丸くしたはたけさんは、腕をほどいて空いている片手を振る。

「いやいや。大体ネェ、そういうのは他人が呼ぶのであって自分で言うのってなんかおかしくない?」

「んー…そんなものですかねぇ」

「そうそう。ま、それがあっても多少威嚇になる程度だから。ない方が気楽でいーんじゃないの」

なるほどー、と忍さんの裏側を聞いて感心しつつも、どうやらはたけさんとはここで道が別れるらしい。

「じゃあ、私はこっちですから」

「じゃ、気をつけてネ」

さよなら、と告げて別れてから、おばちゃん達の会話を思い出す。

しゃりんがん、ってなんだろう。
はたけさんに聞けば良かった。

まあまた今度でいいや。
帰ったらみたらし団子が私を待っている。



121021


シリーズ的な。



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