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□二話
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二話【出会い編】
「ちょっと待ってくれ」



「…………ん…お、て…」

五月蠅いな…。
誰かの声は脳によく響き、そして大反響をする。

何重にも同じ声が聞こえ、そしてその声はどんどんはっきりしていく。

「銀さん!起きてくだ―――――」
「うるせェエェェェェェッ!!」

上半身をグイッ、と起こす、と俺を起こそうとしていたやつが「うわっ」と情けない声を出した。

「今何時だと思ってるんですか!」
「えー? 十時?」
「違います十一時です!」
「なんか今日やけに敬語乱用者だな。俺に向けての態度がようやくわかったか」
「なわけねーだろ!お客さんが来てるんですよ!」

久々の客だ。それにしてもまだ寝足りない。
やはりあの夢だろうか。リアル過ぎて寝た気がしない。

「しゃーねー。起きるか」

よいこらせ、と手を膝について立ち上がる。
服着替えなくてもいいか。めんどいし。

リビングに繋がるふすまを開けるとグラサン…かどうかは知らないが特徴のあるおっさんがいた。

「よぉ、銀の字」
「客って源外のジーさんか…また変なの押し付けに来たのかァ?」

俺が半ば冗談で言ったのだが、ギクリ、と源外が体を震わせた。
嗚呼、今回は何を作ったんだ。
また面倒になるな…。

「まぁ、金くれるんなら引き受けるけどよ」
「今回のは凄いぞ銀の字!」

だからなんだよ。勿体ぶるなよ。逆に気になって仕方がない。
俺は源外の前おnソファーに座る。ギシリと古い音がした。

「ただいまヨー。あ、お客さんアルカ?」
「神楽ちゃんおかえり。源外さんから依ら―――」
「依頼アルカ!またあれアルナ。背ちっちゃくなるやつ!」

また五月蠅いのが来たぞ。
神楽がバタバタと走って俺の隣へ座った。
そんな力強く座ったら壊れそうで焦る。

「そーいや今日大きいもん持ってねーな。小物か?」
「いんや、大物だ」
「大物!?食べ物製造機アルカ!?」
「ちょっと神楽黙ってろ」
「なっ……」

もうすぐ来ると思うんだけどな、と言う源外を見て宅配便か何かだろう。
すると間に合ったようにピンポーン、と力が抜ける音と同時に誰かが来たと知らせてくれる。

「お、来た来た」
「おー、新八、客だ出てこい」
「パシらないでくださいよ!もう…」
「とか言いながら足は玄関に向かってるネ」

なんだかんだ言いながら「はいはーい」と玄関へ行く新八を見送ってから視線を源外に戻した。

「…何造ったんだよ………」
「心のあるもの」
「…ハァ!?」

何を造ってるのか聞いてるのになんで答えがそれなんだ。
すると新八が焦ったようにバタバタと廊下を走ってくる。

「銀さん銀さん!大変ですよ!なんかお客さんがいっぱい……」

客がいっぱい?
新八がこんなに騒ぐ事だから相当多いのか、それとも源外の次に人が来たから、か。
それは見てわかることだ。俺は新八に中に入れるように、と言って源外を再度見遣った。

「彼らはVOCALOIDと言う機械だ。歌うロボットと言っても過言ではねぇ。そしてそのセンターを務める――――」

源外のジーさんどこの実況!?
ロッキューのテーマソングが流れてきそうだ。
しかしその実況の後リビングに入ってきた人物がペコリとお辞儀したのだ。
打ち合わせ、したのか?
その突っ込みは少し置いておこうか。

「初めまして!私、初音ミクって言います!!」

ハツネミク。当たり前だが知らない。
アイドルとか居るよな。こういう偽名。

「偽名じゃないですよ!ちゃんとしたお名前ですッ!」

お名前、と言うくらいだ。頭は幼児じゃないかと思わせる。
…薄々気づいてたんだが…。

「その髪、長くねぇ?」
「ほんとアル!床擦っちゃうヨ」
「あ、そこら辺は大丈夫です!ちゃんと歩く時邪魔にならないように切ってるから!」

ってか、声でか過ぎやしないか。
元気が有り余ってるって事に関しては合格だが。

「次はVOCALOIDメンバー…の二番目と三番目だ」

もはや雑になっている。この男、説明する気が無いらしい。
要するにあれだろ。アイドルグループとかの類のマネだろ。

「ここが万事屋かァ…なかなかいいところじゃねえか!」

片手に銃持ってるコイツがメンバー?銃持ってるやつが?
え?これが!?

「てめぇクソパーマ…声に出てんぞ?一回死ぬか?死んで来るか?」
「あ、結構です……」

言葉に出てたらしい。
本当に殺されかねないので一応あやまっておく。
まぁ、俺主人公だし死なないけどな。多分。

「あれ、もう一人は?」
「レンの事か?待ってろ、呼んでくる。アイツが恥ずかしがり屋だとか可愛いじゃねぇか」

そう頬を染めながら呼びに行くメンバー女。名前聞いてない。
なんだ、男か?女か?

クラスメイトみたいな反応をしてしまう俺に嫌気が射す。

「来たよー!!!」

さっきの声は何。それが第一印象。
だが声を出してるのはさっきまで銃を持っていた彼女で。
なんだろう。この性格の変わり具合。
好きなこの前ではついいじめたくなっちゃうの逆バージョンか何かかだろう。

「…初めまして。鏡音、レンです」

レン、と言う単語に反応し、空を見ていた瞳を一気に動かし鏡音レンと言われた人を見た。
そこには、夢に出てきた少年が、少年の顔があった。
あの瞳もそのままだった。
一つ違うところは服に鍵穴が無いことだった。

「一期一会、じゃないでしょう?銀時君?」
「お?何でおめぇが銀の字の名前を?」
「洗脳してたから。彼の脳を。寝ている間」

洗脳?何それ。俺はもう美味しいの?状態だ。
寝てる間のあの夢が洗脳だと言うのか?洗脳ってロボットのようにあれしてこいとか言うやつじゃないのか?

「銀時君、俺、銀時君の事気にいったよ」
「ハァ!?」
「だって、俺の顔見て嬉しそうな顔したでしょう?」

まさかそっち系?と尋ねるレンに少々苛立ちが出た。
やっぱコイツウザい。
わざわざ付けこんでくる所とか物凄く。

瞬間だった。
俺は彼の本当を見たくてバタバタと駆け寄って彼の服を捲った。

「―――ッ!」

いきなりの事だったのでレンも把握してないだろう。
捲った先には。

「何も、無い……」
「なっ、お前、俺が女だとか思ってたのか!?」

胸の話じゃねぇよ。鍵穴の話だよ。言いたいが我慢だ我慢。
しかしどうしたものか、コイツが夢の中の人だとは分からない。

「ぎ、銀時、君…?」
「何だよ」
「は、恥ずかしい…」

瞬間。

「死ね」

――バァン。銃声が声を上げた。
弾丸は俺の髪を少し裂いて壁に穴を開けた。
弾丸が発射されたのは少女の手の中の銃だった。

「お、お前…な、何しやがるまな板女!」
「リンの事なら何だって言っていいよ。だけどレンを汚す奴はリン、許さないから」

そう言ってレンを抱きよせる自称「リン」は何と言うか、男らしいと言うか。
男女逆じゃね?
と言うのはまた殺されそうになるから止めておく。

「だからって殺すことは無いだろ!? たかが捲られただけで――――」
「レンの大事なものがなくなる!!」

大事なものってなんだ。たかが捲っただけだろ。しかも男だ。

レンに鍵穴は無かった。
切れ目とか、縫い目とかもなかった。
彼はあの夢のレンではないのだろうか。
それとも、あの場所でしか見えないのだろうか。

「リン、もういいよ。俺は大丈夫だし銀時君の言う通り、殺すことはないよ。それにこれからお世話になるんだ」
「お世話?」

源外を見るとにやりと笑った。
源外はある分厚い紙束を取り出し読み始めた。

「今日から一年、彼らVOCALOIDと過ごす事を命じる。仲間を助け合い、信頼を持つ事を目的とする…だとよ」
「え?続きは無いんですか?」
「嗚呼、あとは全部白紙だ」
「なら紙持ってくるなよ!!」

今日初めて(だったか)の新八の突っ込みはやっぱ地味だった。
それでもレンはクスクス笑っていたが。

「こいつらボーカロイドっていうのか?ってかどういう意味だ」
「俺が説明するよ。VOCALOIDとは、vocalandroid(ボーカルアンドロイド)の略でつまりは歌うロボット。俺らはそのために動物のように生かされてきた」
「じゃあ、お前らは生きてないアルカ?」
「まぁ、そうなるな。だけど俺らは血管も心臓もあるしせわしなく動いてる。酸素を吸って、二酸化炭素を吐いて、人を傷つけ蔑むことだってできる」

―――無論、人間にも出来ない事も。
そうやって笑うレンにミク(だったか)が話しに入ってくる。

「レン君!それ以上言っちゃダメ!!」

そんな声がこの小さな部屋に響いた。

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