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□一話
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一話【出会い編】
「壱にて日の出」


※注意 クッションページと似た感じですがここを再度確認する形でお願いします。



………ッ。ここはどこだ…?
真っ暗な部屋の中、俺はゆっくりと体を起こし、辺りを見回す。
右、左、上、下……。何もない、ただ真っ暗な部屋だった。
まず部屋なのかも分からない。
どこからが壁でどこまでが天井なのかもわからなかった。

なのに俺の姿ははっきりと足まで見えた。
光が差し込んでいるわけでもないのにどこから光が差し込んでくるのだろうか。
そんなことを考えながら、特に言葉に出すほどでもないのでよいしょと立ち上がって背伸びをしてみた。

声は何重にも聞こえ、反響していた。
余程大きな部屋なのだろう。もしかしてここは夢か?とも考えたが夢なら夢でいいと思う。
ま、まぁ、ホラーみたいに襲いかかってこなければいいのだが。

むやみやたらに歩くと余計に迷ってしまうかもしれない。
だからこそここでじっとしているのだが…。
それにしても…怖い…。
男の俺が言うのもなんだけど昨日見たあのCMが脳裏に蘇った。
思い出しただけで吐き気と寒気と嫌な汗がだらだらと出てくる。

「ねぇ」
「ギャァアァァアアアア!!!!」
「……五月蠅い」
「な、お前が脅かしてきたんだろうか!!」
「…君を鬼面で嚇そうとしたわけじゃない」
「は、きめん?」
「……鬼面人を嚇す。脅かしたつもりはないと言いたいだけだ。気にするな」

この男、やけに遠回しな言い方をするな。
それに、見たことのない面をしている。まるで俺と同じ死人…。否、違う。死んでは無い。
瞳ははっきりと開いてるが、その瞳の奥を見ようとすると吸い込まれて消えてしまいそうだ。まるで牢獄に入れられた動物のように、光を失っていた。

「君がここに来るなんで、一期一会って言うべきかな」
「一期一会なら知ってるぞ。俺もそこまで馬鹿じゃない」
「……僕と君の一期一会を祝して、僕の名前を教えようか」

なんだこの男、妙に上からだな。
男、より少年の方が合っているか。

「俺の名前はレン。よろしくね」

――銀時君。
レンと言うのか。レン君じゃあれだから呼び捨てで行こう。
……って、ちょっと待ってくれ。
――――銀時、君?
レンの口からとんでもないことが発せられた。

「なっ、なんで俺の名前を!?」
「運命だよ」

運命?運命で俺の名前知ってるのか…?
頭大丈夫かコイツ。

「ほら、君にも運命が来たようだよ」
「はぁ?何の」
「ここから抜け出せる運命だよ」

後ろを見て御覧。と無表情で言われて少しだけ顔を動かし横目で後ろを見る。
……何これ。
横目に見たのは黄色い物体で、再確認するように振り返ると目の前には黄色と銀色と銅色の歯車があった。銀色の歯車はとても大きく、人二倍ほどありそうだ。

「な、何だよこ…れ……?」

レンに尋ねるべく後ろを振り返るが既にそこにはレンはいなかった。
どこいったんだアイツ…気配が全くなかった。
もしかしたら夢だから何でもありなのかとも思ったがこんなにリアリティのある夢はなんか気持ちが悪い。

「この歯車はもう動く事はない」

俺がそれに気付いて後ろをまた振り返るとレンは歯車を触っていた。
瞬間移動、この言葉が一番合っているような気がした。

「それに、鍵もない」
「鍵? まず鍵穴なんてないだろ?」

俺が尋ねるとレンはハハハッ、と笑ってクルリ、とこちらに向く。
レンの瞳は冷めきっていて、口元だけ上げると言う表現が正しい気がした。

「君は餓鬼だ」
「ハァ!?」

俺より小さいレンに言われたくない。そう言いたかったがレンは笑うことも表情を変えることもなく無表情だった。
無表情すぎて反論できなかったのだ。

「餓鬼の目に水見えず」
「…は?」
「肝心な大切な物を見落としてる例え。君には見えないのかい?」

何が、と言いかけてやめた。
何故か?そんなこと、見ればわかる。

―――レンが鍵穴だったから。
否、レンに鍵穴があった、が正しいだろう。

レンの心臓部分には五センチ程度の大きな鍵穴があった。
鍵穴はレン自体から覗いていて、鍵穴の奥には何やら人間ではない異物があった。

「お前……」
「…嗚呼、僕も餓鬼だったみたいだ。君は鍵じゃないか」

ふと、手に違和感があり、手を見る。
するとそこには何時持ったのか、大きな鍵が握られていた。

「一か八か」

カツカツ、と音を鳴らしながらレンは俺の手の届くところまできた。

「どちらにせよ、神の運命(定め)に背くことは出来ない。さぁ、その鍵を刺して、回して御覧。そしたら、君はここから抜け出せる。歯車はまた動き出す。一刻も早く急がなければ、一秒でも早くしてれば神の運命も変えられるかもしれないよ」

お、れは……。
おれは……。 俺…は…。

「……ガッ」

苦しいような声が痛々しく俺の耳に聞こえた。

俺は、
―――――――刺した。

夢ならこれでもいいと思った。
所詮夢だろう。
起きたらまたダラダラな生活を送れるんだ。
そう思って。

「おま、痛みとかあんのか!?」
「あ……たり前だろ……ハッ……く」

速く回せ、と眉を八の字にするレンを見ていて痛々しかった。
こんなの、こんなのリアル過ぎるじゃないか。
突き刺した部分からだらだらと血を流していて服に染みを作っていく。
こんな状態で回したら、どうなるか位分かっているはずだ。
レンは、分かっているはずなんだ。
レンの心臓に鍵を刺し回したら、どうなるか位わかっているはずだ。

「痛いんだから早く回せ馬鹿ァッ!!」

レンの腕が俺の腕に伸び、ぐるり、と無理矢理回された。
瞬間、ガチャン、と言う大きな音とグジュッ、と言う気持ちの悪い音が視覚聴覚でわかった。

ガガガ、と言う歯車の動きだす音と同時にレンが膝から崩れ落ちた。
レンは胸を両手で押さえ、必死に痛みを耐えていた。

「れ……」
「…ッ、開くよ。扉が……」

上目使いで冷や汗を掻いているのだろう。汗は頬を伝い、顎から一滴落ちた。
瞬間。
―――ガシャン。
歯車が止まった。
しかし歯車の形はそこにはなく、あるのは扉だけだった。

「その扉を開けたら君は戻れる。君の世界に」
「は?俺の世界?」
「君と俺の世界は違う。全てが違うんだ」

痛みが治まったのかレンは赤く染まった手をあーあ、と途方に暮れたように見遣り、ゆっくりとこちらを見た。

「本当は一期一会なんかじゃないよ。だって、君の名前を知っているんだ。だって、また会えるから」
「……」
「俺の世界は電子。つまり、君が今立ってる所は機械の中のデータ≠ナしかない。これが…。この真っ暗な世界が俺の全ての世界だ。本体なんてここにしかいない。こんな膨大なデータファイルなのに中身はこれだけ」

きっと、データはレン自身だと言いたいのだろう。
だが、俺にはさっぱりだ。
レンが言う世界が何なのか。
レンが言う電子の意味。

レンが言うに、レンは生きてないのだろうか。
レンに生命が無いとしたら一体彼は何になるのだろうか。

「早く、行きな」
「お前は…」
「君は元の世界に戻るべきだ。僕らはどうすることも出来ないから、君が扉を開くんだ」


「―――――――僕を置いてね」

口元を上げて笑うレンを見て何故か胸が苦しくなった。
あれ、なんでこんなに苦しいんだ。
俺が刺されたわけでもないのに。

あれ…?


「早く、行ってくれ」

口調がどんどん荒荒しくなっているような気もする。
俺はせっかく出来た友達と言う関係を壊したくなかった。
せっかくの夢だから悲しい結末で目覚めたくなかった。

「お前は、行かないのか?」
「何言ってるの。僕はここに居るべきなんだ。居ないと、本体は死んでしまうよ。抜け殻みたいに」

ドアノブに手を掛けて少し回し、押してみる。
これまたホラーのようにギギギッ、と重く開いていく。
開いた隙間からはスッ、と光が差し込み暗い世界に居た俺は反射的に目を閉じた。

「縁あれば千里…。遠く離れても、また会えるよ」
「……あぁ」

そうして、俺は光の中に身を委ねた。
最後、彼の言葉は寂しそうだった。

「行かないで……」

そのたった五文字が、俺の胸を締め付けた。
夢がリアル過ぎる…。

「行かないで……か…」

――俺は、彼に返事をしてない。



続く
____________

こんな感じで始まりました出会い編。
長くなりそうな気もしますが(最悪の場合長編っぽく…)。
とりあえず銀時視点です。
銀さんがカギを刺して回す辺りがちょっとあれですね。
血とか大好きなんですよ。こう見えても。

続編あります。
次は新八が…。

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