キヲクノカケラ
「…俺には、記憶がない」
今年で16歳となる、エーリア王国バウムガルト地区アイル村に住むノア=ツヴァイクには、10歳以前の記憶がない。長い夢から目が醒めたところは、パチパチと赤い炎を上げながら温かい空気を辺りに運ぶ暖炉のある、とても平和な小さな家だった。自分の祖父だと名乗るブルクハルト=ツヴァイクに、わけもわからぬまま引き取られ、大体大きくなった体に何の記憶も持たぬまま、6年の歳月をそこで過ごしてきたのであった。
「…――君の記憶を探そうか?」
赤い瞳は、にっこりと笑ってそう言った。
16歳の誕生日を迎えたノアの前に、突如として現れた異国風の男、サミュエル=アークライト。自分よりは年上だがさほど変わらなさそうなその青年は、全く状況の掴めていないノアに向かって「君の記憶を知っている」と、意味深な言葉を残した―――。
「…私は、貴方の旅を手伝うだけ。」
無口で無愛想な、エイブ系美少女のダーリア=アベリツェフ。
「俺はお前より一つ年上だぜ! …ってことで、お前はこれから俺の弟分だ!! ―――よろしくな、ノア」
東洋風の顔立ちをしていながらも、どこか南西洋の雰囲気を醸し出す、カミロ=誠=ベネディート。
「勘違いしないでよ、あたしはみんなが行くって言うから付いてきただけ、あんたの手伝いをするわけじゃないんだから。 …―――何にやにやしてんのよ、殴るわよ、誠」
一番年下でありながらも、一番年上かのような態度をする東洋の少女。煉紅凜。
うさん臭い、よくわからないこの面子に囲まれて、ノアは記憶を探すことになった。
――――自分の記憶を、知りたくはないかい?
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