短編
□クフフレグランス
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学校の帰り、私は気が向いたので通学路内にある化粧品とフレグランスが売っているお店に寄ってみた。
朝の男の子からしたフレグランスの香りを探したくて。
冴えない私がこんなオシャレなお店入るのには結構勇気が必要だった。周りはあたしと同じ学校のオシャレな女の子達がたくさんいて。
あたしみたいなのがひとりでいるのは場違いだよね…。
フレグランスなんて良く分からないあたしはとりあえず人気!札の着いたフレグランスの香りをかいでみた。
『ぅ…っ』
鼻の奥がツンとするようなローズの香りだった。それを元の場所に戻して、他のフレグランスを取ろうと手を延ばした時…
「ちょっとどいてー邪魔ー」
ドンッ
『きゃっ…』
きゃぴきゃぴした女の子の集団に押されて、人気フレグランスのコーナーから弾かれてしまった。
ちょっとなにするの!?
なーんて心の中でしか言えないあたし。フレグランスが並ぶガラスの板には、メガネでぱっとしない顔のあたしがうつっていた。
ダメだなぁ…ほんと。
うつむいた時、ふと目についた可愛らしい小さなフレグランスを手に取ってみた。
シュッと吹くとふわりと漂って来たパイナップルの香り。
『これだ…!!』
朝の男の子の香り!!
感動していると、フレグランスを持っていたあたしの手に影がさした。
「何がこれなのですか?」
『えっ…?』
不意にすぐ後ろから聞こえて来た見覚えのある声。ぱっと振り向くとそこには電車で助けてくれたあの男の子が立っていた。
「朝ぶり…ですね。」
『あ…あなたは朝の…っ!!』
まさかまた会えるなんて!!
「あっ!!お前朝の電柱女だびょん!!」
パイナップルの男の子の後ろから顔を出したのは、朝あたしを笑った男の子だった。
『あっ…あなた!!で…電柱女ってひどい!』
「だってその通りだびょーん!」
べろべろーんと舌を出すその男の子。むっかつくぅー…!
「おや。お知り合いなのですか?…僕はいつものフレグランスを買いに来たのですが。クフフ…もしかして僕の香りを探していましたか?」
私の手に目線を落として言う。
かっ…と顔が熱くなる。そして手に持っていたフレグランスを慌てて後ろに隠した。
『ちっ…違う!!これはたまたま…っ!』
「クフフフ…取り乱しすぎですよ。…あなたお名前は?」
『〜っ…!きょん…』
「きょんですか。可愛らしいあなたにぴったりの名前です。」
『かっ…可愛くなんか…っ』
またかぁっと顔が熱くなる。この男の子はなんて恥ずかしい台詞をさらっと言うんだろう。歳下のくせに…。
「照れてるびょん。」
『う…っ…うるさいなぁ!』
「クハハッ!おふたりは仲がよろしいのですね。では、そろそろ行きますよ犬。千種が待っています。」
「仲良くないびょんけど…はーい骸さん。」
「ではまた…きょん。」
骸?それが彼の名前なんだろう。
帰ろうとする骸くん。
『むっ…骸くん?』
つい呼びとめてしまい、振り返る骸さん。とっさに呼びとめてしまったけれど、特に話す内容がなくて…
『え…えっと…あ!な…なんで人気のないフレグランスを使ってるの?!』
なに言ってんのあたしってば失礼…!!
「…人気があれば良いというものでもないんですよ。僕の中では一番です。」
そんな私の変な質問にも、
骸くんはふわりと微笑んだ。
トク…トクン…
心臓の音が大きくなる。
「骸さぁん!早く行くびょん!柿ピーが待ってるびょん!」
『はいはい分かりましたよ。すみませんきょん…また。』
『う…うん。ばいばい。』
なんなんだろ…
この胸のドキドキは…
そして私はそのまま手に持っていたフレグランスを買ってしまっていた。