短編


□ネックレス
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よし…!!


出来たっ!!


私が今つくったのは


クッキー。


両手のひらくらいのサイズのクッキーを焼いて、


それに黄色いアイシングを塗ったりしてあの男の顔をつくったつもり。


わりと苦戦して、指をちょっと火傷しちゃったのは秘密。


元々うちの学校では有名な人だし顔は覚えてる。


名前は知らないけどね。


命を救ってもらったお礼に


クッキーってどうかと思うけど、他にお礼とか分からない。


そもそも女の子にしかクッキーなんて


あげたこともないし…


…そう思うと緊張するなぁ。


そしてせっかくのクッキーが割れちゃわないように可愛いピンクの箱に包んだ。


次の日…それを忘れずに学校に持ってきたはいいけれど、


問題が起きた。


友達みんな三年生の教室に行くのを怖がってついてきてくれない…


それに、私が男に会いに行くのに大層驚いていた。


私は男嫌いで有名らしい。


別に男が嫌いとかじゃない。


ほとんどの人がウザいだけ。


俳優とか好きな人とかいるもん。


ひとりで三年の教室に行くとか…


鬼畜なんですけど…。


仕方ないから私はひとりで三年生のクラスに行くことにした。


三年生の教室の前まで行くと、


「あれぇ?きょんちゃんじゃん!
おいちょっときょんちゃんが来てるぞっ!」


ザワザワ騒ぎ出す男達。


私がどこに行こうと勝手じゃない。


仲の良い女の先輩が私に気づいて来てくれた。


「どうしたのきょんちゃん?誰かに用事?」


『はい。あの…前髪が長い金髪の人っていますか?』


先輩は驚いた顔をする。


「え、それってベルフェゴール君?
い…いるけど。あんなヤンキー集団…関わらない方がいいよ?」


先輩がちらっと見た先には


孤立したいかつい集団がいる。


その中に昨日の人がいた。


『ちょっと色々あって…ありがとうございます。』


先輩にぺこりとお辞儀をして、


私は勇気を振りしぼり、


その集団に近寄った。


『あのっ!』


ベルフェゴール君を真っ直ぐ見つめて話しかける。


こっちを振り向いた彼は驚いた…と思う。


なんせ顔が半分見えないし。


「お前…昨日の。」


『ちょっ…といいですか。』


周りからひそひそと声が聞こえる。


あっ…あのきょんちゃんが男に話しかけてるっ…


しかもベルフェゴールかよっ
あぶねぇよきょんちゃん。


ウザいなぁもう。


誰だよあんたら。


「…場所変えとくか。」


ベルフェゴール君が立ち上がる。


私の事を気遣ってくれたのかな。


そして中庭まで出てきた私達。


「いきなりどうしたの?もしかして俺に会いたくなっちゃった?シシッ!」


『違います!お礼言ってなかったから…』


そう言ってクッキーの箱を差し出す。


「違います!ってはっきり言いすぎ!シシシッ」


と言って、箱を開けるベルフェゴール君。


目の前で開かれると緊張する…


「ん、クッキー?なんだよこの奇妙な形?」


やっぱりわからないか…


『…ベルフェゴール君の顔です。』


…。


…。


なんか答えてよ〜っ


すると


「俺もっとかっこいいだろ〜?!」


そう言って私の事をゲシゲシ小突いてくる。


『そ…そうですかね…?』


似てるじゃん!


「そうですかね?って…てめ舐めてんのかっ!シシッ」


『ご…ごめんなさい…』


シシッと笑うベルフェゴール君。


そして自分の首の後ろあたりを


両手でいじりはじめた。


どうしたのかな?


「じゃあ俺からもプレゼントやるよ。なくしたら殺すかんな!シシッ」


そういって私を抱きしめる…


のではなく、


私の首にネックレスをかけた。


『ネックレス!?でっ…でもっ…』


「良いんだよ。きょんにあげる。俺やさしー」


しししっ


と特徴のある笑顔を見せる。


その笑顔を見ていたら


胸がキューってなった。


なにこの感覚…。


「その指の火傷もこれのせいだろ?ありがとなっ」


っ!



ばれてる!



ん…?



『なんで私の名前知ってるんですか?』


「さぁな!シシッ」


『…。』


「あとさ、ベルフェゴール君じゃなくてベルって呼べ。いいな?」


なんだろ…


心臓が元気なんだけど…


顔が熱いんだけど…


『じゃ…じゃあ、ネックレスありがとうございましたさようならっ!』


私は走り出す。


だってきっと顔が赤いから


見られたくない。


クッキー食べてお腹壊したらごめんなさい〜っ


って叫びながら走った。


これが恋ってやつなのかな?
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