短編


□どこまでも
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私は支度を整え、紅茶を持ってザンザス様の部屋へ向かった。




コンコン




ノックをしてみても返事はない。




もう勝手に入ってしまおう。




ガチャ





『…失礼いたします』




ザンザス様はまわるタイプのイスに偉そうに腰掛けていた。





ザンザス様がギロリとこちらを睨んだ。





じぃが殺されてしまった時の事を思い出す。





でもそれはもう昔の話。震える手をおさえてザンザス様の方へ向き直る。





10年も一緒の組織にいるけれど、きっと私の事なんてザンザス様は知らないだろう。





だから…




『本日よりザンザス様の専属メイドとして働かせていただくきょんです。よろしくお願いいたします。』





深々とお辞儀をした。





「…」





なによ。返事くらいしてくれたっていいじゃない。





『紅茶はいかがですか?』






「…」






また無視ですか。






『折角入れてきたので飲んでくださいね。』





紅茶をいれてザンザス様の机に置く。





ザンザス様は無反応なので、他の仕事をすることにした。





部屋を見渡すと、血がついたジャケットが落ちていたり、割れたガラスが落ちている。





なので私はまずガラスを片付けようと思い、落ちているガラスに手を伸ばす。



しかしまだ手の震えは止まっておらず…




指の先に鋭い痛みが走った。




『…つっ!』




私としたことが、指を切ってしまった。珍しくドジしちゃったな。



はぁ…




「…ドカスが。」





『!?』





いつの間に近寄ったのか、真後ろにザンザス様がいた。





いきなり私の腕を掴むと、





ザンザス様ともあろうお方が流血する私の指をくわえた。





『はっ…!?だっ…大丈夫でございますのでっ…!』





「黙れドカスが。」





こんなに近くに整ったザンザス様の顔がある。





たかがメイドにこんなことしちゃうんだ。こんな怖い顔しときながら。





メイドの間で絶大な人気がある訳だよね…





不覚にも、私の心臓は少しドキドキしていた。





ザンザス様は私の指から口を離すと、





「こいつは他にやらせろ」



冷たく言い放つと背をむけて離れていく。




『えっ…いえ私の仕事ですので…っ』





「てめぇに反論権はねぇ。ドカスが。」






『…はい』





ザンザス様が何を考えてるのかはわからない。





でも…そんなにドカスドカス言わなくたって。





始めからミスをしてしまったので、私は少ししょんぼりしてしまった。





『申し訳…ありませんでした…。』





血のついたジャケットを持って、ザンザス様の部屋を後にした。
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