短編


□お持ち帰り
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それは数ヶ月前の出来事。


朝、新聞をとろうとポストを開けるとあたしの名前が書いた小包があった。


『あれ?あたしなにか頼んだっけ?』


差出人は不明。


身に覚えはない。危ないかもしれない。


『うーん…開けてみよ!』


あたしはそれを部屋に持っていって開く事にした。危ないものな可能性もあるけれど、好奇心が優ってしまった。


袋をあけると、さらに、さらに厳重に包まれていた。


『なんでこんなにぐるぐる巻にしちゃうかなぁ。』


べリッと思い切り最後の紙を引き剥がす…と


コロンっ


中のものが床に転がり落ちた。


『…指輪?』


それは繊細な模様でふち取られた綺麗な高価そうな指輪だった。
なんでこんなものがあたしのところに?


『…まーいっか!!綺麗だし!』


その時は指輪についてあまり深く考えなかった。
このひとつの指輪が私の運命を変えるなんて思ってもみなかった。


『ぅあっ!!時間!!』


いつのまにか学校はもう始まってる時間。昨日もその前も遅刻してしまった。
どうせ遅刻だし二時間目の体育から出よーっと。





「あっ、きょんちゃんまた遅刻?ダメだよしっかりしなきゃ。」


『えへへ…』


友達の京子ちゃんはうちのママよりもお母さんみたいだ。


ママはもうどこ行ったんだか…。
一週間は帰ってきていない。
帰ってきても口聞かないんだけどね…。


『今日って体育なんだっけ?』


「弓道だよ!はやく行こ?」


『きゅ…弓道か…。あ…あたしまだ突き指痛いからいいや!見学しとく!』


「そっか…じゃあ先に行くね。早く治るといいね♪」


『ありがと…』


うぉぉ…罪悪感…。


だって突き指が痛いなんてウソ。まだ人生で一度も突き指なんてした事もない。


遅れて弓道場に行く。みんなが苦戦しながら弓を放ち、まさに的外れな方向へ飛ばしているのを見て少し苦笑する。


弓道部の人達ですら上手く的を狙えていない。
あたしは隅に置いてあった弓と矢を拾い上げて、ひとり学校の裏へまわった。


だれもいない、塀に囲まれた場所。密かにあたしの好きな場所。
石を拾って塀にガリガリと印をつけた。


そこから離れて距離をとる。
そしてその一点を狙って弓を引いた。


あたしは弓道なんて習った事はおろか、弓に触った事すらなかった。あの日まで…


小学一年生の時、一度だけ死んだパパに連れられて弓道場へ行った事があった。ちゃんと先生が一から教えてくれる弓道教室の体験だった。


子供達はみんな一生懸命に話を聞いて、とても短い距離から弓を放つ。それでも外す。届かない子さえいた。


そして私の番が回ってきて、緊張しながら私は弓を持った。
それが初めて弓に触れた時だった。


「持ち方が間違っているわよ。」


そう先生が言ったのも、あたしには届いていなかった。
もう、的しか見えていなかったんだもん。


んで、先生が横から私に触れようとした。


その瞬間…


ヒュンッ


あたしは弓を放った。
その弓は、的の中心に刺さった。


…のではなく、的の中心を貫き、壁を貫き、壁の向こうの石塀に深く突き刺さっていたのだった。


弓を引くと昔の事を思い出す。


ヒュンッ


あたしが付けた印の場所には綺麗な穴が空き、塀の向こうを覗くと向こうの木にも同じように穴が空いていた。


『…弓矢どこまでいったかな。』


腕に筋肉がついている訳でもない。むしろあたしの腕はヒョロヒョロだから…


どうしてなのかは分からない。


これは天国のパパしか知らないあたしの秘密。
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