短編
□クフフレグランス
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あたしはきょん。高校一年生の女。
一週間以上前のある朝、あたしはいつものごとく学校へ行くため、満員電車に揺られていた。
ただ、ひとつだけいつもと違うことがあった。
それは、女性車両に乗れなかったこと。スーツを着た男の人が周りにたくさんいる中、必死に銀の棒につかまっていた。
高校の入学式から大分たって、暑くなってきた。電車はクーラーがついてはいるけどムンムンしている。
はやく着かないかなぁ…
そう思っているとき、あたしはスカートのあたりにモゾモゾと違和感を感じた。
カバンがあたってる…?
恐る恐る後ろをチラリと見て、あたしの太ももに触れているのは…
『っ…!!!』
太い腕…男の…おじさんの手…
産まれて始めての痴漢だった。
怖くて、下を向いてはやく自分の降りる駅に着くことだけを考えた。
でもあたしが降りるのはまだまだ先。なかなか着くはずもなかった。
あたしが抵抗しないことに調子に乗ったのか、太ももをはっていた手はスカートの中へ侵入してきた。下着を触り出す。
『や…っ…』
男の手があたしの秘部へ触れる…
パシッ
その寸前、不意に男の手が離れた。振り返ると肥満気味のおじさん。そして…
「クフフ…可愛らしいお嬢さんに、こう言う行為は感心しませんねぇ。」
身長が高く、特徴的な髪型の紺色の髪の毛。緑色の制服に迷彩柄のシャツを着た男の子が、男の手首を掴んでいた。
そうそう見ない美男さん。
男はとても慌てた様子だ。
周りに立っていた人達がざわめく。
プシュー
ナミモリー ナミモリー
次の駅に到着し、人が次々と降りていく。それに続いて紺色の髪の毛の男の子が男の手を引いて降りていく。
行ってしまう…!
すると扉が閉まる前に男の子が振り返り…
「もう気をつけてくださいね。」
とあたしの頭をぽんっと撫でた。
ふわっ…とフレグランスの良い香りがした。パイナップル…?
「ぁ…っ」
プシュー バタン
お礼を言う前に扉は閉まってしまった。
最後、彼があたしを見つめたあの瞳は…両目が違う色だった。
朝の短い時間の中で、大変な出来事…。
自分の降りるべき黒曜駅に降りたあとも、あたしは青年の事を考えながら、ぼーっとして歩いていた。前も見ずに。
ふと前を見ると目の前には電柱…
ガインッ
『いたぁっ!』
あたしは電柱に思い切りぶつかってしまった。衝撃でちらちらと星が舞う。
すると近くを歩いていた男の子達のうちのひとりがゲラゲラと笑った。
「だっせー!なんらアイツ!!電柱にぶつかってやがんの!」
「犬、煩い。」
ムッとしてそっちを睨んで驚いた。
だってそれは、さっきの男の子と同じ制服を着た人達だったから。
『あっ…ま…待って!!』
「あ?なんら?」
『ど…どこの学校??』
「あ?」
「…黒曜中。行くよ犬。遅刻する。」
メガネのニット君が質問に答えてくれて、もうひとりをずるずると引いていく。
黒曜中学…?
あたしの通う高校のちょっと向こうにある中学校だ。
…ってことはさっきのお兄さんも中学生?!歳下!?
み…見えない…!!
あたしよりも歳上かと思った…!
あの人さっきあたしのために並盛で降りてしまったけれど…。
遅刻なんじゃないのかな?
なんてヒリヒリするおでこをさすりながら、頭の中は彼で埋め尽くされていた。