ぎふと

□いただきもの 特権
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ことの始まりは沖田君と銀時の二人の声が重なったことからだった。


「あんパン買ってこい。」
「やきそばパン買ってこい。」

・・・沈黙。

「あ?こいつにパシらせていいのは俺だけだ。」

「そりゃこっちのセリフだ旦那ァ。」

「・・・・あんたら。」

今期のくじびきでやっといい席をひけた、と思いきやこの二人にハサまれて最悪なことになった。
最初のうちは「よろしくね。」と声をかけてるだけでよかったのに、いつのまにか「よろしくしないで。」と声を毎日かけるハメに。
もともと断れない性格だから、最初は片方からの要求だけを飲んでたけど、今日初めてタイミングがあった。神がかり的な。
まあいつかはこうなると思ってたけど、ここまでしつこいんだなと二人の威圧感を肌で感じながら思う。


「お前な、俺がどれだけこいつに慕われてるかわかってる?」

「知らねえよ。むしろ俺の方にこいつが惹かれてるに決まってんでさぁ。見ろよこの、憂いてる目。」

呆れてるんです。察しろ。
ハッ、と銀時はその言葉を鼻で笑いスルーした。

かと、思いきやまた反論する。この繰り返しがずっと続く。

「第一やきそばパンなんて和洋折衷が織りなした大変下んねーもんじゃねえか気色悪い。」

「いや、それ褒めてないからね?銀時それほめてないよ?」

「ハッ、あんパンこそ、昔見てたアニメ思い出してこちとら吐き気がしてくるぜィ」

「沖田君それは完全な個人の主張だからね?」

「だってアイツ頭をちぎ「ストーーーーーップ!!!!」」

そろそろ彼らの人権を守るためにも、記憶を掘り起こす沖田君の口をふさいだ。
両手を沖田君の口に当てていると、目じりが少し上がった気がした。
ふさいでるから見えないけど若干口元も歪んでるような

・・・笑った?

グイッ

「・・・ほら、こいつはこんなに積極的になるほど俺に恋しちまってるんでさぁ。」

「!」

笑ったと思った次の瞬間、沖田君に腰を抱き寄せられていた。
もともと近くまで来ていたので、あまり移動することもなく彼につかまった。私のバカ。
温かい体温がひしひしとこちらに伝わってくる。

「てめえ・・・!」

銀時が怒りの感情をあらわにして、こちらに来ようとする。
足を一歩こちにら踏み出した瞬間、

「っと・・・あと一歩こっちに近づいて来でもしたら・・・どうなるかわかってたんだろ旦那?」

「・・・くっ。」

綺麗な顔でとんでもないことを言う。冗談なんだろうけど・・・ブラックな微笑なので結構怖い。
銀時も私の顔色をうかがい、そこで足を止めたみたいだ。

「ックク・・・夕、お前ェが俺に焼きそばパンを買ってきたくなるよーな魔法をかけてやらァ。」

「え?」

魔法?

何を言ってんの頭大丈夫?と言おうとした瞬間に沖田君が私の耳元に唇を寄せた。

「!」

「・・・。」

その時顔が極限まで近付いてきたので少しドキッとする。

そして、口を開いて出てきた言葉が、



「やきそばパンやきそばパンやきそばパンやきそばパンやきそばパン
 やきそばパンやきそばパンやきそばパンやきそばパンやきそばパンやきそ」



「って、サブリミナルやないかぁぁぁぁぁああああいい!!!」

「グフォァッ!?」


間髪いれずに私は沖田君の胸元にエルボーを入れた!
自分でもびっくりするくらいにするどい突っ込み。なるほどお笑い芸人さんはこんな感じでやってるのか。(ちがう)
私のエルボーをくらった魔王は苦痛に顔を歪ませた後、よろ、と足をぐらつかせる。

「く・・・っ!?」

「おいっ夕何やってる今のうちに逃げろッ!!」

「あっ」

銀時の怒号とともに私はハッとした。
そうだ、沖田君が悶えてる間に逃げなきゃ・・・っ!!

私は力の抜けた沖田君の腕から抜け出し、銀時の方へと駆け寄る。
まるで魔王から逃げ出した気分だった。
すると、駆け寄って銀時のもとにたどりついたと思ったと同時に、


ガシッ


「!?!?」




ぎゅ、とすごい勢いで腕を掴まれた。



「えっあのっ銀時えっ?何して、」

「いいから逃げるぞ!!いつ再起してくるかわかんねえからな!!」


私がその手に戸惑っていると、真剣な表情をして早口でそう言った。
そして腕を掴んだ主はそのまま強引に私を連れて走り抜けた。
私が全力で走ってもきっと追いつかないだろうスピードで。

教室を抜けて廊下へ、廊下を抜けて階段へ、更に階段を抜けてそのまま二階へ。
わいわいと賑わう生徒たちの視線はもちろんこちらに注目していてかなり恥ずかしかった。
好奇な目で見る人や、いいなーと羨望のまなざしで見る人、冷やかしすような目で見る人など色々な視線があった。

銀時はそんなことお構いなしに颯爽と駆け抜ける。
その間私は下を向いて、握られた手のぬくもりだけを感じながら足を走らせていた。
行き先など分からぬままに。







「ぜぇ・・・ッ!ぜぇ、はぁ・・・ッ!」

「ハッ・・・こっ、ここまでくりゃ・・・ハァッ、あいつもこれねえだろッ・・・」


二つの荒い息が響き渡るのは屋上だった。
私たちは一階の教室からここまで休みなしに走り続け辿り着いていた。
額が汗でべっしゃんこなのに気付き少し気持ち悪くなる。


「おっ屋上まで来ることなかったんじゃ・・・っ!?」

「じゃあお前焼きそばパン買うつもりだったのかよ?」

「いやそういうこと言ってるんじゃないの!!」


別に教室から逃げればよかった話じゃない。
何もこんな人目のつかないところにわざわざ来るなんて・・・、


「・・・あそこにいたら、視線がありすぎてお前気になるだろうと思って。」

「。」

「っ、ンな”初めて思春期の子供がプレゼントをくれたときの母親みたいな顔”すんなよぉぉぉぉぉおっ!!」


どんな顔よ。

でも、確かにあの場所にいたらあの廊下で会ったときみたいな視線で注目されてたかも。
銀時なりの気遣い、なのかな。
ちょっと嬉しい。

「・・・俺もあんま人に見られたくねえから。」

「あ、確かに人嫌いですオーラ出してるかも。」

「ハッ!?誰が引きこもりだって!?」

「いや誰もそんなこと言ってないから。」

それを肯定したら私も引きこもりになりかねない。
でも、あれはだれだって逃げたくなる。
もし、逃げ出していなかったら、銀時が手を引いてくれていなかったら・・・

その光景を想像して少しゾッとした。




「あ、あと、」

「ん?」


銀時が付け加えるようにして言葉を足す。
そして私の顔へと視線を移し、少し照れたようにこう言った。



「お前をパシらせていいの、俺だけだから。」





「は?」



茫然とせずにはいられなかった。





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