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□貴方の一年が幸せでありますように
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幾らバスケが好きだからと言ってずっとやるわけには行かない。
氷室は真面目に机に向かっていた。

「ふぅ…」

息を吐き出して時計を見ればもう12時をさしていた。

季節が変わりつつある日々に風がひんやりと窓から吹き込んでくる。

その時、部屋にノックの音が響いた。
誰だろうと返事をすると気の抜けた返事が返って来る。

「室ちん〜」
「アツシ?どうかした?」

ドアを屈んで入って来た紫原は片手に何故か敷き布団と毛布を持っていて珍しくお菓子を持っていなかった。

布団を置くと、紫原は机に座っている氷室にのしかかる。

「眠れないよ〜」
「いつもだったら寝てる時間なのにね」

ぎゅ〜っと抱き締められ、暖かいなあなんて氷室は思っているとふと体温が離れていく。

「アツシ?」

まあいいか。アツシがマイペースなのは今に始まったことじゃないし。

そう思い再び机に向かえば影がかかり、長い人影に見上げれば読み取りにくい表情をしている紫原だった。

「室ちんちょっとごめんね」
「うわっ!?」

いきなり視界が上がり、浮遊感に思わず氷室は紫原にしがみつく。
自分も180cmを越えている男子なのにこうも軽々と持ち上げられるのは如何なものか。

そのままいつの間にか(と言ってもさっきだろう)ひかれていた布団にゆっくり下ろされる。

「もう寝ちゃおーよ」
「…仕方ないなぁ」

出口をなくすようにぎゅっと抱き締められて、甘えるようにすり寄られると氷室はもう断ることは出来なかった。
それ所か存分に甘やかしてやろうと綺麗な紫をした髪を撫でる。

片手でリモコンで電気を消せば、抱き締める力が強くなっていく。

「本当に、どうしたんだ?」

髪を梳きながら訪ねれば、絞り出すようにようやく声が聞こえた。

「……今日は何月何日?」

頭からすっぽ抜けていて、氷室は携帯を見ればディスプレイには10/9 Tueと記されていた。

「10月9日だよ」
「今日ね、俺の誕生日なんだ」
「そうだったのか!?
Happy birthdayアツシ!」
「うん。ありがと」
「でも言ってくれればプレゼント用意しておいたのに…」
「別に今まで気にしたことなかったし。キセキの皆が祝ってくれたらそれでよかったし。……でもね、」
「…でも?」
「室ちんに祝って欲しかったんだ」

紫原敦が生まれ落ちた今日と言う日を。
今まで歩んで来た17年間を。
氷室に知って欲しかった。

沈黙が続き室内には二人の息の音と、時々カーテンの揺れる音が聞こえる。

「…アツシ誕生日プレゼント何がいい?」
「ん―…お菓子?ケーキ?」

目を擦りながら言う紫原に大きな子供に見えてほくそ笑む。

「アツシは相変わらずだなあ」

物じゃなくてお菓子を強請る所あたり紫原だと思う。

眠いだろうにながら寝まいとする紫原は最後に大きな爆弾を落としていった。

「あ…、でも室ちんがいいなー…」
「っ、アツシ!?」

見ればスースーと寝息をたてていて、一気に脱力感が襲ってくる。

火照った顔はどうも窓からくる冷えた風でも収まってくれないらしい。

くすりと笑うとその長い紫色の前髪をかきあげると其処に一つキスを落とした。

「Good night.アツシ」


【貴方の一年が幸せでありますように】


end
 

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