965

□熱で溶けてしまいそう
1ページ/2ページ

すっかり日の暮れた夜の体育館では未だに緑間がシュートを打ち続けていた。

弾丸のようにゴールに吸い込まれていくボールは奇跡じゃない。
気の遠くなるような願掛けと日々の練習がこのボールを成り立たせている。

そして俺は惹かれるようにアイツのシュートを見続けるのだ。

「……尾」

何だか今日は調子が悪かった。
頭痛いし時々視界が歪んだりして気のせいかとは言えない程に。

それでも練習はやるし、練習メニューが減るわけでもない。
でも自主練は休んで体育館の隅っこで見続けた。

「高尾!」
「し、んちゃん…?」

いつの間にか俯いていた顔を上げるとムッとした顔で緑間が俺を見下ろしていた。

やべ、全然気がつかなかった。

「今日の所はこのくらいにして帰るのだよ」
「あ、はーい」

よっこいせとか言って言うことの聞かない身体を起こしながら、片付けちゃおと緑間に声をかける。

転がっていたボールを籠に戻し、カチャっと遠くで小さな音がしたけど気にせず倉庫の奥へ仕舞っていく。
少しの動作が億劫で仕方無い。

「……高尾?今日変なのだよ」
「んなことないよー。もう暗いし早く帰ろーぜ」

笑って誤魔化しつつ小さな窓から空を見ると、月はかなり上の方へ上り始めていた。

家に帰ったらさっさと寝てしまおうと倉庫のドアに手をかける。

「…アレ?」
「高尾早く開けろ」
「真ちゃん」
「何だ」

横にスライドしようとしたが、ガチャガチャ音を立てて開く気配がしない。

途端に嫌な予感がして、背後に居る緑間を振り返る。

「ドア、閉まってる」
「馬鹿を言うなさっきまで開いて…本当だったのだよ」

俺をどかしてドアを開けようとしたが全く開かず、何故か施錠されている。

「どっからか出れねーの?」
「窓から…は無理か。柵があるしな」

柵を壊したとしても俺でもはいれそうにない。
これは本格的に朝練まで待つしかなさそうだ。

「高尾?」
「…ん、どうしたの」

揺らぐ頭を抑えて、緑間に笑顔を向けると間近に顔が迫って来る。

触られると体温が高いのがバレるかもしれない。

俺は後ずさりしながら緑間と距離を取っていく。

「あ、真ちゃんまさか発情しちゃった?やだなぁ真ちゃんムッツリ!」

ふざけて誤魔化そうとしても緑間は俺との距離をどんどん詰めて来る。

「いやいやいや真ちゃん此処じゃいくら何でも無理だから!」
「黙れ」

追い込まれて背に壁があってきゅっと目を瞑ると額に冷たい体温が広がって気持ちよかった。

「…何故黙ってた」
「……何のこと?」

しらを切るが鋭い緑色に睨まれて喋り続けていた口を紡ぐ。

「熱、あるのだよ」

腕を引っ張られて少し埃っぽいマットに座らせられると隣に緑間も腰を下ろした。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ