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□眼鏡の奥の緑色には
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「真ちゃん勉強教えて!」

中間テストが近く、いくら優秀を誇るバスケ部とて、テスト前は休みになっていた。
緑間の部屋にはシャープペンを走らせる音とページを捲る音だけがする。

「うーわかんねぇ!」

高尾は其処まで頭が悪いわけじゃない。
そもそも頭が悪かったら進学校の秀徳には入れない。
でも化学だけは苦手でいつも緑間に教えてもらっていた。

「よく続けてやって疲れないね真ちゃん」
「俺はいっぺんにやる派なのだよ」

飽きたのか途端に喋り出す高尾に緑間は集中力を持っていかれそうになる。

高尾はじーっと緑間を見つめるとにやっと笑った。

「ねぇ真ちゃん」
「何なのだよ」
「眼鏡、貸して」

手を出して渡せと要求してくる高尾にあからさまに嫌そうな顔をして断る。

「嫌なのだよ。眼鏡を渡したら見えなくなる」
「えー!ちょっとだけだから!ね?」

なおも引かない高尾に緑間は再度釘を差す。

「高尾、本当に止めておいた方がいいのだよ」
「大丈夫だって!」

ほら、早く貸して!とねだる高尾に緑間は溜め息をついて高尾に言い放った。

「高尾一つ言っておく」
「何?」
「お前合宿の時覚えてるだろう。風呂で俺がお前を見えてなかったのを」

確かに夏合宿で風呂に入った時に高尾と話してるはずなのに緑間は水の出るライオンの方を向いていた。

だからどうしたのか高尾にはわからなかったのだが。

「…えっと、だから?」
「俺の視力はとてつもなく悪いのだよ」
「そりゃ知ってるよ」

あっけらかんと言った高尾に緑間はまだわからないのかと眼鏡のブリッジを押す。

「だから眼鏡をかけてもぼやけて見えないし、所詮高尾だから賢くも見えないのだよ」
「ひっど!!」
「それに」
「何?」

反対側に座っている高尾の肩を片手で引きながら、緑間は眼鏡を取り高尾の唇にキスを落とした。

「眼鏡を外した俺が見たいなら最初からそう言えばいいのだよ」

近くに来た緑色に途端、高尾は真っ赤になって目をそらす。

「…真ちゃんのバカ。意地悪」
「それに惚れたのは誰だ?」
「俺です…」

普段は口達者の癖に本気を出されると緑間には勝てず真っ赤になっていると、緑間は眼鏡をかけ直し高尾を見た。

「お前の顔が見えないだろう?」
「…っ!!真ちゃんのバカ!天然タラシ!でも大好き!」

これでもお前の眼を心配して言ってるのだが…。

そうは言わずに反対側から回って来た高尾を腕の中に納めつつ、緑間ははっきりと見える天井をレンズ越しに眺めた。


【眼鏡の奥の緑色には】


end
 

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