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□ぺろり舐めたら苺の味がした
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一学年上の廊下を歩き、避けなくちゃ潰されそうな巨体は一つのクラスのドアの前で止まるとガラッと勢いよくドアを開けた。

「室ちーんご飯食べよー」
「あ、アツシいらっしゃい。よく来たね」
「んー」

優に2mを超える身長の紫原はドアを少ししゃがんで通ると、自分の席から笑顔を向ける氷室の下へ向かう。

氷室は先程の教科書をしまい、一つ包みを取り出すと立ち上がり、紫原と共に教室を後にした。

「アツシは今日学食?」
「違うよ。今日は室ちんがお弁当だと思ったから買って来ちゃった」

片手に持っていたビニール袋を見せ、子供のようにお菓子を貪る姿はどう見たってバスケ界で名を轟かせる「キセキの世代」だとは思えない。

喋る時、自然と顔があがるが氷室とて小さいわけじゃない。
紫原は尋常じゃなく大きいのだ。
少なくとも氷室はアメリカから帰って来てこんな大きな日本人がいるとは思わなかった。

その紫原はコテンと首を傾げると氷室に近寄り鼻をスンスンさせる。
それはまるで犬のようだった。

「室ちん何か食べてる?」
「流石アツシ。鋭いね。クラスの女の子が飴をくれたんだ」

喋る度に口の中で転がる飴はほんのり甘い。

無類のお菓子好きな紫原はいいなーと氷室を羨ましがる。
そんな様子に兄のように微笑むとポケットの中から一つ包まれた飴玉を取り出す。

「アツシ食べるかい?ちょうど2つ貰ったから」
「んー」

差し出したぶとうの飴を掴むと思いきや、紫原は氷室の顎を掴んで顔を近づけた。


【ぺろり舐めたら苺の味がした】


同じくらい氷室の顔は真っ赤で。

コロンと口伝いに転がって行った飴は紫原の口の中に収まる。

「ごちそーさま」

そう笑う紫原は自慢気に笑ってみせた。


title.雲の空耳の独り言+α
 

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