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□ただ怖いだけじゃない
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長いようで短かった三学期も終え、世間一般では春休みを迎えている。
俺、降旗光樹は京都にやって来た。と言っても親の付き添いで来たんだけれど。
親は俺には興味のない何かを見始めてしまい俺は暇つぶしがてら京都の街を一人歩き始めた。
「うわーっ!キレー!!」
店の通りから外れて数分歩くとそこには大きな桜の木が堂々と一本立っていた。
一人で騒いでいると誰かが木の麓で桜を見上げていた。
桜の花びらが舞って短めの赤が目に映る。
そこにはあのWCで会った俺には恐怖の対象にしかならない赤司征十郎が立っていた。
「確かキミはWCでテツヤといた…」
何で此処に赤司征十郎が!?あああそっか赤司の通う洛山は京都だったあああ!!ヤバい殺られるっ!でも逃げれないし、逃げたいけど!
「ふふふ降旗ですっ。降旗光樹」
「『ふ』が多い。…あぁ敬語じゃなくていいよ」
いや無理!無理無理無理!無理だからっ!
赤司はキョドってる俺を見ると、考えるように顎に手を添える。
それでさえ様になっていた。
ってそんな場合じゃないっ!
「少し、話をしないかい?」
「い、いいですけど…」
怖いんですけど笑顔綺麗すぎて怖いって。
誘われたら断れない元々の性格が仇になる(寧ろ断わったらオヤコロされる)。
そうしたら赤司は不満そうに形のいい眉を寄せていた。
「敬語」
「ひっ!はいっ、あ、うん!…え、でも何で?」
「僕達同い年なのにキミは敬語で話すのか?」
「あ、そっか…」
案外怖い人ってだけじゃないのかもしれない。
相当単純な俺の思考はそう結論をはじき出した。
満足げに微笑むと赤司は背を向けて桜の木の下へ向かう。俺が慌てて追うと赤司は木に凭れた。
「今日はどうして此処へ?」
「家族旅行なんだ。今は父さん達は何か見てるけど興味なかったから…」
「ふーんそうか。だったら僕が京都を案内してあげようか?」
「でもいきなりだし悪いよ!」
「いいから」
有無を言わさず手を掴まれると引かれつつ歩き出す。
俺とは違うしっかりしたバスケをするための手に思わず顔が赤くなった。
赤司ってこんなに親切な奴だったんだ。
「あの、赤司」
「いきなり呼び捨てとはいい度胸だね」
「ごめんなさい!」
即座に謝ってやっぱり赤司は赤司だったと思い、ハサミ飛んで来ませんように!と思いながら顔を上げる。
すると赤司は俺を見つめながら、まるで悪戯が成功した子供のように笑った。
「別に、悪くはない」
意外な一面にドキっと心臓が一高鳴りする。
一瞬可愛い何て思ったけど赤司は男だぞ!?
「着いたよ」
「甘味屋…?」
「そう。行き着けなんだ」
洋風な雰囲気で作られながらも京都の町並みを壊さない何処か和風な雰囲気の漂うお店。
中に入り椅子に座って赤司が勝手に注文をしてしまい、悪いよと言ったけどまたいいからと返されてしまった。
お待たせしましたと店員が持って来たのは抹茶アイスと抹茶アイスの乗ったパフェ。
「キミのはこっち」
と赤司君は俺の方にパフェを渡される。
礼を言って一口抹茶アイスを口に含むと控えめの甘さが口いっぱいに広がった。
「おいしーっ」
「それは良かった」
その後はアイスを食べながら誠凛の話や洛山の話、それに俺自身や赤司自身のたわいもない話をした。
どれも知らなかった赤司の一面が覗けた気がして、ちょっとおかしかった。
何処からか着信音が聞こえて赤司が携帯を取り出す。内容を見て舌打ちをかます。
「ちっ、玲央からか」
俺が様子を窺っていると、赤司が思い出したようにこっちを見る。
「ああチームメイトだよ、洛山の」
そう聞いて思い出したのは髪が長めでちょっとお姉系の実渕玲央だった。
赤司は立ち上がって俺を見るとふっと笑って手を振った。
「じゃあね…光樹」
な、名前…!呼び捨てされた!
何故かドキドキして心臓が早鐘をたて始める。
「じ、じゃあな」
同じように手を振ると、背を向けて赤司は歩き出した。
ドキドキするのは何で?
赤司が怖いから…?ううん違うそれだけじゃない気がする。
熱さを誤魔化すようにアイスを食べればひんやりと甘く冷たかった。
でもよくわからないけど赤司は俺が思うに
【ただ怖いだけじゃない】
さっきまで彼についていた桃色の花びらを見つめながら、怯えながらもしっかりと此方を捕らえる彼を思い出す。
「降旗光樹、ね…」
思い出すのはWCで初めて会った時、怯えた色を映していた鳶色。
そしてたまに見せる惹かれる笑顔。
アレが堪らなく欲しかった。
「必ず僕のモノにしてみせる」
僕は携帯を取り出し、彼に連絡すべくテツヤのアドレスを開いた。
end