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□言の葉を積もらせずとも
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カチャっと取っ手の捻る音がして、そこから申し訳なさそうに水戸部が現れた。

「え、水戸部!?」
「じゃ、後はごゆっくり」

よっと何て見た目に似合わないことを言って伊月は水戸部の入って来たドアから出て行ってしまった。

「「……………」」

二人っきりの部室が静寂に包まれて何だか居心地が悪い。
そんな空気の中先に動いたのは水戸部。

俺の前まで歩いて来ると、そのままギュッと抱き締められた。

「水戸部?」
「…………」
「…ごめん。まだ聞こえないんだ」

零れそうになる涙を必死にこらえ、見えないように水戸部の肩に顔を埋めた。

だけど水戸部がフルフルと首を振る。
まるで聞こえるよと言うかのように。

「…水戸部?」
「…………」
「え?」
「…………」
「…も、一回言って?」

端から見れば俺が一人で喋っている光景。

静寂の中でどんな音も聞き逃さないように俺は集中して目を閉じる。


(俺も小金井のことが好きだよ)


随分懐かしく感じる水戸部の声が、俺にだけしか聞こえない水戸部の声が俺の鼓膜を震わせた。

「やっと聞こえたぁ…」

好き、と言われたことよりも水戸部の声が聞こえたことにホッとした俺はとことんバカかもしれない。

零れそうだった涙も一気に引っ込んで俺は身体を離すと、今日一番の笑顔を見せた。


「水戸部大好きっ!」


俺達を阻んでいた壁はようやく崩壊を告げたんだ。


【言の葉を積もらせずとも】


俺は水戸部が好きだ。

優しくて、あの大きな手で撫でられるのが好きだ。

心配そうにしながらも兄のように微笑むのを見るのが嬉しい。

俺だけ彼の声が聞こえるのを特別に感じてる。


ねぇ神様。


水戸部と出逢わせてくれてありがとう。


俺、今、超幸せ!


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