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□日跨ぎのハッピーコール
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寝ようと思って暗くした部屋で天井を見上げる。
無論窓は開けていない。開けたりしたら折角のクーラーで涼しくなった室内の空気が逃げる。それだけは避けたい。
枕元に置いておいた携帯を開くと暗い部屋には眩しい。
何も考えずに弄っているといつの間にか受信ボックスを開けていた。
上からテキトーに見ていくと多いのは隣に住む幼馴染みと黄色いアイツの名前。
そいつの変わらない語尾で綴られたメールに、絵文字と女っぽいなと苦笑する。
ふと画面の右上にあるデジタル時計を見ると23:57と表示されていた。
「つかもう12時か、うおっ!!?」
画面に着信の表示がアイツ専用の着メロと共に静かな室内に響く。
慌てて出ると其処からはノーテンキなアイツの声が聞こえた。
『青峰っち〜』
「黄瀬?どうしたんだよ」
あまりのタイミングの良さに心臓が急スピードで鳴り響いてる。
何ビビってんだよ俺は。
電話口で黄瀬がぎゃあぎゃあ言ってるがイマイチ耳に入らなかった。
それが突然静かになった。
「…黄瀬?」
『声、聞きたくなったんス』
「ぶっ」
男に似合わない台詞を平然と言ってのける電話越しの黄瀬が安易に思い浮かんで笑いが止まらなくなった。
「馬鹿だろお前」
『なっ!酷いッス!恋人に向かってそれはないッスよ!?』
またぎゃあぎゃあ言い出した黄瀬に俺はまた始まったかと溜め息をつく。
別に会いに来れない距離でもないしな。
まあ夜だし今は無理かもしれないが。
「会いにこればいいじゃねぇか」
『…青峰っち格好いい』
「当たり前のこと言うなよ」
そう返すと黄瀬が笑ってた。
『青峰っち青峰っち』
「んだよ」
『外見て欲しいッス』
面倒くさいが仕方なくベッドから起き上がり、窓の鍵を開ける。
ああ冷たい空気が逃げるなと思いながら開けると案の定むわっと熱せられた空気が部屋に入った。
「…?何もねぇぞ?」
空を見上げれば夏の夜空に満面の星が輝いている。
『違うッス。下、下』
下?
言われた通り下を向くと此方に向けて手をふる笑顔の黄瀬。
「黄瀬!?」
「『びっくりしたっしょ?』」
今は隠れている太陽のような笑顔で黄瀬はえへへと得意気に笑う。
俺はドアを勢い良くぶち開けて玄関を開くと身体に衝撃が来た。
「青峰っち〜!」
「お前モデルって自覚あんのかよ?夜出かけんな危ねぇだろ!」
「…ごめんなさいッス」
シュンと垂れた犬の耳が見えて(実際はない)、頭をぐしゃぐしゃに撫で回せば、髪型崩れるッス!ときゃんきゃん吠えた。
「で?お前はどうしてこんな遅くに来てんだよ」
「あ!それッスよ!」
えへへと笑うと黄瀬はまた飛び付くように俺に抱きついて来た。
「誕生日おめでとうッス」
恥ずかしいのか俺の胸に頭を押し付けてぐりぐりと押し付ける。
やがて気がすんだのか顔を上げると唇に柔らかい感触。
離されると、黄瀬は照れ臭そうに笑ってみせた。
「誰よりも先に言いたかったんスよ」
そう言って笑った黄瀬に一つキスを落とした。
【日跨ぎのハッピーコール】
「青峰っち〜。部屋暑いッス」
「…窓閉めんの忘れてた」
「どんだけ急いでたんスか」
「…教えねぇ」
「えー!!青峰っちズルい!」
(お前が来て嬉しかったなんて口が裂けても言えねぇ!!)
end