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□この際だから、ちょっとだけ
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すっかり夜も深まった学校の帰り、寄り道してたら遅くなっちまったと青峰は心の中で一人呟く。

ふぁ…っと大きく欠伸を漏らすと隣にいた黄瀬がチラッとこちらを見た。

「でかい欠伸ッスね」
「別にいいじゃねぇかよ」
「まぁそうッスけど…」

覚束なさ気に言葉を紡いだ黄瀬は目をこするとトロンとしていて水膜が張られていた。

「眠い…ッス」
「どうしたんだよ急に」
「ん〜、」

頑張って起きてようと目をこする黄瀬だがぼや〜っとした顔をしていた。
よく揺れる電車が揺りかごのようで眠くなるとは聞いたことがあるようなと青峰は普段使わない頭で考えた。

そんなことを考えた青峰の肩に突然頭の重みが加わる。

「…黄瀬!?」
「ん…あおみねっちぃ」
「……っ!」

ふやけた声で呼ばれた自分の名前は酷く甘いものに感じて、青峰は顔に熱がたまるのを感じていた。

黄瀬はと言うと呑気に青峰の肩で気持ちよさそうに寝息をたてている。

伝わる体温が暖かく心がほぐれるような気持ちになって、今絶対自分の顔はふやけてるなと考えた。

「頑張りすぎだ、バカ」

学校もあるのにモデルの仕事やってバスケの練習までして。

本人が好きでやってることだから否定する権利はないが少々向こう見ずな気のある黄瀬は何でも必死にやる。

それは追いかけられる側の青峰が良くわかっていた。

しかも本人は無意識で弱みを見せようとしない。
どれだけ辛くても笑顔を振り撒いて知らないふりをする。

それが余計に青峰の心配を煽るのだ。


ふと腕に手が回って巻きつけられるとさっきより距離が近くなる。
ごろごろと喉を気持ち良さそうに鳴らす犬のようにすり寄る黄瀬の顔が近くなっていた。

青峰は溜め息をつくと普段誰にも見せないような優しい顔をしていた。

「仕方ねぇな今日だけだぞ」

そうして気持ちよさそうに狸寝入りをかますバカの頭を何時になく優しい手つきで撫でたのだった。


【この際だから、ちょっとだけ】


怒るまで甘えてみたりして。


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