965long2

□見え隠れする本心が苦しくて
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「伊月?大丈夫か?」
「へ?」

声が聞こえて、舞台の上から俺を見下ろしていたのは日向だった。

今は部活前の準備中。
一年生は今日は学年の行事だかでいないらしい。

軽く飛んで降りてきた日向は俺と同じ目線に立つ。

「何かボーっとしてんぞ。
体調悪いのか?」

額に手を伸ばして来た日向の手を一歩下がってかわして、日向を見上げる。

「日向あのさ、」

カントク、木吉に告られたんだって。

そう言いかけた言葉は口の中に消えて俺は再び口を噤んだ。

「ホントお前、この頃おかしいぞ。
言いたいことがあるんなら言えよ」

まっすぐすぎるそのレンズ越しの眼を見ていられなくて、俯く。



だって、言えない。

言えるわけないじゃんか。

俺が日向を好きだなんて。

俺の日向に向ける感情は恋愛で、日向が俺に向ける感情は友愛で。


一方通行な恋は叶わない。


「うわっ」

俺は迫る日向の胸を押すと踵を返して走り出していた。
後ろでは日向の俺を制止する声が聞こえたけど足は止めない。

いつもははっきりと見える視界が滲んで何も見えなかった。
俺はそれを拭うこともせずに走り続けていた。



日向が俺のことを気にするのは昔馴染みだから。

日向が俯く俺を引っ張り上げるのは主将だから。

日向が俺と笑っていられるのは親友だから。



カントクのこと好きなんだろ?


だったら俺にそんなに優しくすんなよ。



頼むから、期待なんてさせないでくれ。



【見え隠れする本心が苦しくて】



苦しすぎて胸が張り裂けそうだ。




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