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□まぶしすぎる未来
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一気に目が覚める感覚がした。
まるで冷水をかけられたようにはっきりしている意識に首を傾げていると聞き慣れた声が遠くから聞こえる。


アツシ


「…室ちん?」


お前は光の元へ行け


「…光?」


氷室が指さした先を辿れば、真っ暗な中ポツンと白い光が差し込んでいた。
薄暗くて真っ暗なここよりは明るくて、眩しい。
氷室はいつものように笑いかけると紫原の肩を軽く押す。


ほら、行くんだ
アツシなら手に入れられる筈だから


「…室ちんはどうするの?」


俺は行けない


「一緒に行こうよ。
此処にいたってどうしようもないよ」


アツシ一人で行け


「誰もいない彼処に?」


一人でもアツシなら行ける筈だから


「やだやだやだ!室ちんと一緒にいたい!」


俺はそっちには行けないよ


「何で!?」


俺とアツシは違うから


「違って当たり前じゃん!」


アツシには与えられたギフトがある


「そんなものいらないよ!俺が望んで手に入れたんじゃないっ!!」


お前まで、俺を馬鹿にするのか?


「……え」


所詮秀才止まりだと、天才にはかなわないと嘲笑うのか?


「違うっ!そんなつもりじゃ…!」


違わないだろ?


「……っ」


いらないって決めつけて、誰でも欲しがるギフトに甘んじているのは誰でもない、お前だろ


「それは…」


だから、行けよ。アツシ


「…やっぱりヤだよ!!
無理やり行かせようとするなら室ちんも無理やりにでも連れて行くからっ!!」


駄目だよ、さぁ行くんだ


氷室はそう言うと背後の闇に吸い込まれるように消えて行く。


「やだっ待ってよ!!室ちん!!」


何故か動かない足の中、必死に手を伸ばして氷室を捕まえようとする。
氷室はあとちょっとの所で笑ってるのに涙をこぼしながら闇に消えた。


ほら、どんなに掌が大きくたって、腕が長くたって、大切なものには届かない。


「……タツヤっ!!」


「アツシ!!」

一気に目が覚める感覚がした。
今度はどっと汗の吹き出るような気分で。
短い感覚で吸い込まれる息で何とか肺に空気を取り入れて行く。

ようやくはっきりしだした視界に映ったのは心配そうに覗き込む人影があった。
それが氷室だとわかると今度こそ届いた手で腕の中に収める。

「……アツシ?」

腕の中に氷室がいるのに、震えが止まらなくて強すぎる程の力で抱き締める。
そんな紫原に痛いとも言わず抱きついて離れない背中をゆっくり撫でた。

「怖い夢でも見た?」

一定のリズムで叩くと落ち着いて来た紫原は震えが止まって来ていた。

「…室ちん、居なくならないで」

嫌でも思い浮かぶ夢の中。

あんな本心を隠した氷室何て、見たくない。
だったらあの試合で本心を明かしてくれた方がマシだ。


「違ったって、平凡だって、何も出来なくたっていいから、一緒にいてよ」


才能が欲しいと嘆くなら、とことん練習にだって付き合ってあげる。
甘えたいんなら存分に甘やかしてあげる。
勝ちたいと思うなら一緒に戦ってあげる。
だから、お願い。


そう紫原は泣きそうな声で呟いた。


「……あぁ」


氷室は紫原には見えていないだろう困ったような笑顔で笑った。


【まぶしすぎる未来】


お前輝かしい未来の為なら俺は、


end
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