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□近代技術に感謝
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降旗はベッドの上で枕を抱きながら携帯を眺めた。

恒例の赤司との夜の電話。

学校も部活もあり多忙な二人には毎日電話している時間も余力もない。
だから週に一回だけのこの電話が何とも大切な時間だった。

そう言えば、とスクールバックの中から古典の教科書を取り出す。
パラパラと捲っていたら携帯が振動を始め曲が鳴りだした。


「あ!赤司だ!」


教科書をベッドの上に伏せ携帯を取ればそこから聞こえてきたのは遠い京都にいる赤司の声が聞こえる。
すると自然に降旗の頬も緩んだ。


『やあ光樹。一週間ぶりだね』

「うん。久しぶり」


えへへ、と照れくさく笑うとそんなこと言っても可愛いだけだよ、と返される。

恥ずかしくて顔を赤くしながら叫ぶように否定するが、赤司は電話越しに笑うだけだった。

こうなると赤司は聞かないのを降旗はわかっていたから誤魔化す為に話を変えようとする。

目についたのはベッドに伏せられた古典のノートをペラペラ捲って赤司に話題を振った。


「そう言えば赤司ー。今日古典でこんな文やったんだ」

『どんな文だい?』

「えっと、【もし、手紙というものがなかったら、どんなに憂うつで、心がふさぐことであろう】だって」

『枕草子だね。ボクの教科書には載ってなかったかな』

「それでもわかる赤司って凄いな…」


赤司の頭の良さに感嘆するばかりだが、その文を見ると改めて思う。


「でも俺からしたらさ、むしろ手紙の方が気がかりだったと思うんだ」

『何でだい?』

「だって手紙って遠ければ遠ければ中々届かないだろ?
ずっと返事がまだかなって待ってるより…」

『そんなことないよ』

「え?」

『キミからの手紙だったら一言一句も見逃したくないと思うし、待つのはツラいかもしれないが返事が返ってきた時、時間をかけた分嬉しいと思うかな。
それは光樹もわかっているだろう?』

「……うん」


降旗だっていつも赤司とメールをしていると他のことに手がつかないし、落ち着かない。
胸を高鳴らせながら待ってるその時でさえも幸せに感じていた。

それは赤司も同じで。

同じように想いあえることは心地よかった。


『それにどんなに遠くたって、会えなくたって今はメールも電話もある。
寂しいと思うならもっとメールしてくるといいよ。
むしろ嬉しいくらいだ』

「でもさ、」

『光樹は気にしすぎだ。
キミがかけていてくれるんならいつだって構わないんだから』

「…うんっ」

『明日も早いんだろう?もうそろそろ寝なきゃツラいよ?』

「…そう、だね」


名残惜しいが明日も朝から部活があるし、それは赤司だって同じだろう。


『おやすみ、光樹。愛してるよ』

「っ、おやすみ赤司!
えっと俺も愛してるっ!」


真っ赤になりながら電話を切れば、降旗は頬の熱を冷ます為にちょっとだけ手で扇ぐフリをする。

そして降旗は携帯を見つめた後、ベッド脇に置いて目を閉じた。


【近代技術に感謝】


end


―――
古典の文の意味はあんな感じだった気が、する…←自信ない(´`;)
電話の後萌え死にそうな赤司様が見たい(キリッ
 

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