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□なに笑ってんだ、置いてくぞ
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久々の学校も部活も仕事もないオフの日。
俺の目の前には桃っちが可愛らしくココアを飲んでいる。
青峰っちとの久々デートだと浮かれて家を飛び出したのは約束の一時間前。
早く出過ぎたと気づいたのが15分前。
そのまま街中をうろついていたら後ろから声をかけられた。
振り返れば桃色の髪を揺らして笑うのは桃っちだ。
何でも買い物の帰りだったらしく、俺がお茶に誘うと快く了承してくれた。
最初の内は楽しそうに学校のことを喋っていたが、途中からやはり青峰っちの話になり、だんだん熱が入っていく。
「そんなわけできーちゃん大ちゃんの付き合ってる人知らない!?」
「は、え!?」
マズい全く話、聞いてなかった!
そんな様子が顔に出てたんだろうな、桃っちは構わず続けていた。
「だーかーら、大ちゃん誰かと仲良く連絡取ってるみたいだし、私が見たことのない笑顔だったし!」
「あーえっとー」
多分、それ俺だ。
高校になってしばらくして俺と青峰っちは付き合い始めた。
それからこれまで以上にメールすることが増えた。
だったら俺の可能性が高い。
いや、他の人だったらマジ凹む。黒子っち相手でも凹んじゃう。
ってか青峰っちそんな顔してるんスね。
桃っちは考えている俺に首を傾げる。その度にサラサラと綺麗な桃色の髪が揺れた。
大きな桃色の瞳が俺を見る。
無理!!絶対言えない!!
それ俺なんだー、何て言えない!!
「…何か面白いものでも見たんじゃないッスかねー?」
「そうかなー?」
可愛いらしく首を傾げたが俺は気が気じゃない。
次はどうしようと焦っているとタイミングよく着信音が鳴った。
携帯を見ればそこには青峰っちから『待ち合わせ場所についたからさっさとこい』とのことで。
ここでゆっくりお茶してる場合じゃないか。
「桃っちゴメン!今から予定入っちゃった!ホントごめんね!」
「ううんいいの。じゃまたね」
店を出て集合場所まで走れば時計台に背も垂れて青峰っちが立っていた。
「青峰っち!」
「おっせーよ黄瀬」
「とか言っちゃって待ってくれるくせにぃ」
「…んだよ悪ィかよ」
「えへへ。青峰っち優しー!」
「おら、行くぞ」
「へ?」
青峰と差し出された手のひらを交互に見てからえへへと笑う。
「なに笑ってんだ、置いてくぞ」
それはやだッスねーって言いいながら手を繋いで歩き出す。
勿論恋人繋ぎだけどね。
片手で帽子を被り直して今日のデートが始まった。
【なに笑ってんだ、置いてくぞ】
「ホント、は知ってるんだけどね」
そう言って桃っちが笑ったのを俺は知らなかった。
title.確かに恋だった