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□笑い合える絆がある
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3月1日。

まだ寒さの残る青空の今日、俺達は卒業する。

最後になる三年間お世話になった制服に袖を通すといつも着てる筈なのに感慨深くなって。
早すぎんだろとか思いつついつものように着崩して俺は家を出た。

早めに来た筈なのに既にクラスはごった返していて、写真を撮ったり、思い出話をしたりと最後の学校生活に別れを告げようとしている。

俺は薄い鞄を放り投げて辺りを見渡すと一段と背の高い奴らだから直ぐに見つけた。

「おはよう宮地」
「今日は珍しく早いんだな」
「うっせ」

大坪と木村は俺の回りの席に座ると些か首が楽になる。

グダグダと話をしていると机に書かれた落書きを見つけた。
そういや授業暇過ぎて落書きしてたんだっけ。

普段は目に止めないような痕も今じゃ俺達が存在していた証のように主張していた。

「なぁ大坪、木村ー」
「あ?」
「どうした?」

二人は俺を見る。
俺は顔を合わせないまま机の落書きをなぞった。

「俺達ってさー」

その後を言う前に頭に重しがかかった。そんでかき混ぜるように撫でられる。
見上げれば大坪の大きな手が俺の頭を撫で、隣の木村は笑って言った。


「聞くまでもないだろ」


何でわかんだよ、って言い返したかったが先に木村はニヤリと笑うと肘で俺をつついてきた。

「何時にもましてポエミーだな宮地」
「轢くぞ木村」

流石に恥ずかしくなってかませば、大坪はいつもの宮地だなと大らかに笑う。

その時気の抜けた音と一緒に放送が入った。

『卒業生は体育館南側へ集合して下さい。繰り返します――…』

ちょっと泣きそうになって早すぎだろ、と俯けば後ろからトンっと背中を押される。
つまずきながら振り返れば大坪は笑っていた。

「胸張れ、宮地」

包み込むようなその声にやっぱり主将は大坪で良かったと改めて思う。
俺は笑ってそれを返した。

「ありがとな秀徳の父」
「じゃあお前は秀徳の母か?」
「アホか刺すぞ」
「木村は秀徳の兄か?」
「パイナップル持って来る変な奴だけどな」

もうこんな冗談を言い合える日も終わりだ。


学校生活の最後が近付く。




卒業式が、始まる。





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