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□遅咲きのその花はただ残されて、
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重たいけど開け慣れた鉄の扉をゆっくり開いた。

鳥が羽ばたいて水色の大空へ飛んでいく。その色は黒子っちを思い出させる。
IHの終わった後姿を消した黒子っちは結局俺には見つけることは出来なかった。

立ち並ぶ桜木では蕾が春の訪れを待っていた。
まだ風は冷たくて思わず身震いする。

少し汚れた白の屋上。
俺は卒業証書の筒を持ったままここに来た。


柵に手を置き見下ろせば大好きだった背中が見えた。
呼びかけようとして俺はすぐに口を閉じる。

きっと気がついてくれない。

飛び付いてバスケをしよう、と言いたかったけれど。



いつも必死に走ったって追いつけなかった。
俺はただ背中を見てるしか出来なくて。
距離はどんどん遠くなっていく。

いつの間にかアンタは遠くなってしまった。

体の何処かが軋んで、ツラくて、泣き出したいくらいに怖かった。




もしあの時、俺にボールが当たってなかったらきっと俺達は出逢わなかったのに。

誰よりも強い光を放つアンタに。





「こんな苦しい思いするんなら青峰っちに……」





出逢うんじゃなかった。





それだけは口が裂けても言えなかった。



泣きたくなる程暖かくて輝いていて色鮮やかな大切な想い出。

俺には捨てることなんて出来やしないんだ。



眩しい程の青が俺を鮮やかな世界に引き連れてくれた。
その青が俺の灰色の世界を虹色に変えてくれた。

このキセキも起こらなきゃ良かったなんてもう言えない。





「馬鹿だなぁ、俺…」





アンタと居たときには気付かないフリしていた想いが俺の胸を締め付ける。

伝えられない癖に自分のなかで区切りのサヨナラさえ言えなかった。



忘れないから。


アンタの声も一緒にバスケをしたことも懐かしい空も。あの日々は鮮やかなままだ。

俺は変われたのかな?
そんなの自分じゃわかんないけど。





「俺はアンタが好きで、どうしようもなかったよ」





誰でもないアンタだけが欲しかったんだよ。




さよなら。




俺に鮮やかな世界を与えてくれた人。
次会うときは俺はアンタの敵だ。




待ってて。




必ずアンタに勝ってみせるから。




【遅咲きのその花はただ残されて、】


風通しのよい左側は少しだけ寂しく感じるけど溢れる程の光が俺を照らし続けた。


title.stardust


―――
image.ヒカリノユクエ/GUMI
卒業シリーズ一回目。
 

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