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□差し出された手
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※一年生I・H後の話。



鷲の目。
視界の人物配置を頭の中で再構築することで全角度から状況が把握でき、ゲームメイクに役立つことの出来るものだ。

一見便利なようにも見えるが鷲の目には副作用があった。
使い過ぎると頭で情報が処理できなくなり、体調が悪くなってから頭痛を催すのだ。

今は練習中。正直体調は良くない。正直ツラい、かも。

でもバスケはやりたくて、止めたくなくて必死に食らいつく。

カントクと目が合った。俺はバレないように知らないフリをして目を離した。

「集合ー!!」

カントクの声に駆け出そうとするけど立ち眩みがして動くことが出来ない。
俯いたまま立ち止まっているとドンッと何かにぶつかった。

「ぁ、ごめ…」
「伊月」
「…日向?」
「ストップだ」

日向は呆然とする俺を抱き止めたままだ。
頭が追い付かなくて俺は日向を見上げる。

「………え?」
「カントク、伊月を一回休ませるぞ」
「え、ちょっとどういうこと!?」

俺が口出す暇なく話は進んでいく。
日向が支えてくれてる分まだましだが頭はグラグラするし、足に力が入らない。

でも何で、何で、気がついたんだよ。
俺、うまく隠してたでしょ?

いつの間にか話は終わっていたらしく、俺は日向に支えられながら部室に向かっていた。
反抗しようにも頭が痛くてどうしようもない。

中に入るとタオルケット(何処から出して来たんだろう)のひかれた大きめのベンチの上寝転がらされて目の前がいきなり薄い桃色に染まった。
触ればそれはタオルのようで適度に温められたそれは心地いい。

「…気持ちいい、かも」

そう呟けば日向は隣に腰を下ろす。
俺は緊張して肩を震わせた。

日向はそのまま俺の髪に指を通した。
その感覚が心地良い。
心までも解されていくような感覚。

だから躊躇って出なかった問いも滑るように出て行った。

「…ねぇ何で気がついたの?」
「確かにお前は隠すのはうめぇよ。いつも通りの伊月だった。
でも俺にまで隠すのは無理だな」

日向の手の片方が俺の手に触れる。
ビクリと反応した俺に対して日向は包み込むように俺の掌と繋いだ。

あったかい、日向の手。




「……どうしたんだよ、伊月」
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