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□謝り癖の彼のヒミツ
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※捏造注意

「10分休憩!!」

諏佐の声を後目に桜井は体育館から抜け出す。

外は風が吹いていて気持ちいいけれど、桜井は胸に来る苦しさと息が出来ないもどかしさでそれどころじゃなかった。


元々桜井は身体が弱かった。
喘息持ちであった彼は運動は出来ても持病のせいで苦しい思いを何度もしてきた。
その気弱な性格も負けず嫌いな性格も、あの謝り癖もそこから来ていのだ。


そのことを桜井は桐皇の誰にも話してはいない。
知られたくもなかったし、言っては何だが変な情けはかけられたくなかったから。

壁を伝いながら体育館の裏に進んでいく。

誰にも知られたくない。
その意地だけが桜井を動かしていた。

『絶対無茶しちゃ駄目よ』

そう言えば母さんがそんなこと言ってたっけ――…。

ズルズルと身体は落ちていき、遂に座り込んでしまう。
自分の息の抜けるような音と比例するように胸の苦しさを増して行く。

もう駄目かも何て思ったその時、霧のかかった頭に声が響いた。

「桜井!?」

上げるのも億劫な頭を上げれば主将である今吉が走って此方来ていた。

「げほ、いまよし、さ…!」
「喋るな!ゆっくり息しぃ」
「ひゅっ、スイマセ…!」

しゃがみ込んだ今吉は苦しさでボロボロと涙を零す桜井の背をゆっくり撫でる。

「チッ、もしかしなくても喘息かいな」

舌打ちをした今吉は焦りながら桜井に問うがもう桜井は答えることが出来ない。

「桃井か監督に…」

どちらかを呼ぼうとすると服の裾を引っ張られた。
下を向けば懸命に息を整えようとしながら首を横に振る桜井がいた。
あまりに必死な様子に今吉は留まり、桜井の顔を上に向けさせる。

「桜井、ちょっと我慢しぃや」
「ひゅ、んぅ…!」

隙間をなくすように桜井の唇を塞げば驚いたように目を見開くが、息を吹き込まれたのを感じるとそれに合わせて息をする。

数度繰り返してるとカクンと桜井の身体の力が抜けた。

「桜井!?…って気ぃ失ってるだけか」

腕の中で意識を失ってしまっている桜井は息も落ち着いていて苦しげな様子もない。
それに今吉は柄にもなくホッと息を吐き出す。

「桃井いるんやろ?悪趣味やなぁ」
「そんなこと言わないで下さいよ、主将」

今吉の物陰から出て来たのはマネージャーの桃井で困ったように眉を下げている。
桜井を軽々と横抱きにして持ち上げた今吉は桃井を見た。

「お前、コレ知ってたんか?」
「…はい」
「…保健室連れて行くさかい、上手くごまかしといてぇな。…このことは言うんやないで」
「桜井君のことですよね。…何でですか」
「うーん、何やろなぁ。言うならあまりにもコイツが必死やったから、やな」

去って行く今吉に桃井は桃色の髪を揺らして体育館に戻って行った。



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