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□お礼は1つのキスで
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ある日、比較的平和な誠凛高校バスケ部の活動する体育館に小金井の悲鳴が響き渡った。

「うぎゃあああ!!き、木吉顔から血出てるよ!!」

指差していたのは木吉で彼の頬からは爪で掠ったらしく、結構鋭利で一線から血が流れていた。
だが当の本人はきょとんとしている。

「え?…あ、ホントだ」

触ればぬめりと大きな掌に血が付着していた。
周りにいた部員はぎゃああっ!と叫んだり、大丈夫か?と尋ねたりしていた。

そこに凛とした声が響く。

「静かにしなさいっ!こんなことで動じるんじゃない!!」

ない胸を張って立つのはカントクこと相田リコであり、おぉ…っと感嘆の声を上げる部員を余所にリコは木吉に言う。

「鉄平こっち来て。消毒するから」
「おー」

呑気に答えた木吉は救急箱を漁るリコに歩み寄る。
脱脂綿を取り出したリコは30cm以上上にある木吉を見上げた。

「鉄平しゃがんで」
「ん、これでいいか」

膝を怪我している木吉に負担をかけないようにリコが一生懸命背伸びする。

それでもやっぱり届かなくて足がプルプル限界を訴えてくるが、何処からか視線を感じて一度足を下ろして振り向く。
リコが振り返った途端練習に戻る素振りを見せたが何処かぎこちないし、頬を染めている部員もいた。

そこで見られていたことに気がついた。あの、よく考えれば恥ずかしいのを、だ。

「て、鉄平!こっち来なさい!」

つられて赤くなりつつ、リコは木吉の手を取ると部室の中に押し込んだ。

「カントクが木吉の馬鹿を連れ込んだ…!」
「これは何かある!気になるね水戸部!!」
「んなこと言ってるとカントクに殺されるぞ」

体育館では残った部室達がリコが聞いていたら鉄拳が飛ぶであろう言葉が飛び交っていた。


一方部室では半分やけになりながら木吉をベンチに座らせテキパキと手当てを終わらせた。

「はい終わり!」
「ありがとな、リコ」
「べ、別に…、私カントクだもの。当たり前でしょ!」

真っ赤になってそっぽを向くリコが可愛らしくて、立ち上がり細腰を引き寄せると額にキスを送る。
満足げな木吉に対し、リコはわなわなと震えて恥ずかしがった。

「なっ」
「これのお礼な」
「〜〜っ!!馬鹿鉄平!!もう、練習戻るわよ!!」
「うっ」

一発木吉の腹にパンチをヒットさせるとリコはさっさと体育館に戻る。
パンチされた腹をさすりながら真っ赤になっていたリコを思い出して、木吉は一人微笑んだ。


【お礼は1つのキスで】


end
 

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