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□おめでとう、は言わないけれど
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すっかり秋も深まってきたように感じる11月。
葉が染まるのと同時に寒い風が吹き抜けて行くようで高尾はコンビニの屋根の下で身を竦ませた。
空気に触れている顔が寒くて早めにつけ始めたマフラーにうずめれば少しはましになったような気がしないでもない。
そんな一人立っている高尾の後ろから手が伸びて温かい何か頬に当たった。
「ひゃあっ!?」
横を見れば大きすぎるココアの文字、見上げた先には緑間がいつもの仏頂面で立っていた。
不意打ちを食らって悔しかったのか高尾は緑間を小突く。
「びっくりすんじゃんか真ちゃん!」
「いらないのか?」
「いる!いる!いります!」
「ならいいのだよ」
そのまま明後日の方向をむいてしまった緑間だが耳が少し赤いことを高尾の目はとらえていた。
でもまさか緑間が自分にココアを買って来てくれるなんて。
思えば緑間も気遣いが出来るようになったものである。
感慨深げに頷きながらプルタブを開ければ緑間に訝しげに見られて高尾はニヒヒと笑う。
それから当たり前のように緑間の隣に並んだ。
「ねぇ真ちゃん明日のラッキーアイテム見つかったの?」
「当然なのだよ」
頷いた緑間は鞄からコンビニの袋を取り出すとそのまま渡された。
「……なにコレ?」
「お前のラッキーアイテムなのだよ」
言われてコンビニの袋を開ければその中にはまた綺麗に包装された淡いオレンジ色の袋が入っていた。
高尾は緑間にココアを持たせ、歩きながらも器用に開ければ中には緑色のカチューシャが現れる。
「ん?」
よくよく考えてみればカチューシャってコンビニに売っているものなのだろうか?
しかも綺麗に包装されている為、緑間が此処で買ってはいないことがわかる。
それに緑間は高尾の誕生日を知っている。勿論おは朝チェックの為にだ。
もしかしなくてもこれは誕生日プレゼントとして考えてもいいのだろうか。
ニヤニヤしてカチューシャを見れば弁解のつもりなのか緑間は早口で喋り出す。
「別にお前が心配だとか誕生日だとかそう言うのは関係なくてだな…お、おは朝の!ラッキーアイテムだったのだよっ!…って聞いてるのか高尾!?」
「アハハごめんごめん真ちゃん面白くて…ブフォッ」
「笑うな!」
またもや緑間はそっぽを向いてしまったが、言い訳をしている時にどんどん赤くなってたから確かめる必要なんてない。
まだ笑う高尾に緑間は半ばヤケクソ気味に叫ぶ。
「もう行くのだよ!早くしないと置いて行くのだよ高尾!!」
「は〜い」
よい子の返事で頷けば、いつの間にか止まっていた足を動かし始める。
早足で歩き始めてた緑間も高尾が隣に並べばゆっくりペースを落としていく。
そんなささいなことが嬉しくって、くすぐったかった。
せっかく貰ったのだし、緑間にもつけたのを見てもらいたい。
ささっとカチューシャを見て緑間の前に躍り出た。
「どうだ!真ちゃん!」
「…似合ってないこともないのだよ」
「何そのツンデレ!」
「それよりココアを持て!」
「…へぇーい」
しぶしぶ受け取ればまだココアはあったかくて美味しい。
ココアをすする高尾を緑間は上から見た。
黒い髪に明るめの緑が映えている。まるで高尾は緑間のものだと主張するかのように。
これでいい、と緑間は内心でほくそ笑んだ。
そんな緑間を鷹の目を持つ高尾が見逃すわけがない。小さな独占欲が嬉しかった。
「えへへ、真ちゃんありがと。大好きっ!」
抱きついて繋いだ手はココアとお汁粉と互いの熱で暖かかった。
【おめでとう、は言わないけれど】
大切だ、という気持ちはいっぱい込めて
end