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□俺にとっての光
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教室からグラウンドを覗けば外の部活の生徒が声をだして練習をしている。
暮れ始めた夕日が教室に差し込んでオレンジ色の光に照らされていた。

「だあああーっ!!わかんねーっ!!」

誰もいない教室に火神の声が響き渡る。
部活で鍛えられた声は一人の教室に虚しく霧散した。

「だいたい古典なんて生きる上で必要ねーだろ!」
「でも受験戦争には勝てませんよ、火神君」
「うおっ!!?」

びっくりして勢いよく振り返れば黒子がちょこんと自分の席に座り本を開いていた。

「く、黒子!?お前いつから…、って最初っからか?」
「学習しましたね火神君」

関心したように呟けば、馬鹿にされたような気がして黒子の水色の頭を鷲掴みにした。

「火神君僕の頭はボールじゃないです」
「んなことわかってっけどムカつくんだよ!」
「僕に当てないで下さいよ」

散々黒子の頭を撫で回した後、舌打ちして手を離せば黒子はぐしゃぐしゃになった髪を撫でて直していく。

「それで何がわからないんですか?」
「全部」
「言うと思いました」

呆れたように黒子が溜め息を吐くと火神がそのプリントを差し出して来た。

「これ…、今日の小テストのですよね」
「ペナルティーのかわりにこれ直して持って来いって」
「受からなかったんですね」
「わかんねーんだよ!」

それでも教科書とか見て埋めたのだろう埋まってない解答欄は後一つだった。

「『天の原ふりさけ見れば渡る日の【影】も隠ろひ照る月の光も見えず』…万葉集ですね」
「まんよーしゅーってなんだ」
「万葉集と言うのは平安時代に作られた…って一から説明から説明したら日が暮れますね」

火神を見上げればオレンジ色の光で黒い赤髪が深く染まっていた。

「火神君これの現代語訳わかりますか?」

首を振って子供っぽく否定を示した火神にくすりと笑うと黒子は喋り出す。

「『大空をはるかにふり仰ぐと空を渡る太陽の【光】も隠れ隠れし、空に照る月の光も見えない』と言う意味です」
「“影”なのに“光”って読むのかよ」
「はい」
「何か俺達みてーだよな」
「えっと…?」

わからないと言うように小首を傾げた黒子を今度は火神がほくそ笑む。

「お前は影で俺は光って言っただろ?でも俺は…」
「そんなことないですよ」

被せるように火神の台詞を殺した黒子は諦めたように笑っていた。
そんな顔をさせたくなくて、その小さな唇にキスを落とす。
それから乱雑な字で解答欄に光と書き込むと勢いよく立ち上がった。

「うっし!終わったあああ!!」
「それだして帰りましょうか。火神君バニラシェイク奢って下さい」

そう笑う黒子はオレンジ色の夕日に照らされて輝いていた。

「…充分お前も光だと思うんだけど」

小さく呟いた火神の声は果たして黒子には聞こえたのだろうか。
教室のダストが夕日の光でキラキラと輝いて黒子と火神を照らしていた。


【俺にとっての光】


end
 

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