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□道化師は笑う
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「青、なんかじゃないッス」

俺は一人呟いた。
まるで自分に言い聞かせるように。

青で連想するのなんて俺にとって一人しかいないくて。眩しい程の青を持つ青峰しかいなかった。

頬を撫でる風が心地よい。
動いたばかりの身体には少し悪いかもしれないが今は一人になりたかった。

風で煽られた金の髪の下から覗いているだろう青い金属に触れる。

「水色だったのに」

俺が求めていたのは柔らかくて優しい空色。
深海何万メートルにある深い深い青なんかじゃない。

帰って来て欲しかった。
またバスケを好きになって欲しかった。
嫌いにならないで欲しかった。
赤司を緑間を紫原を…、相棒である青峰を。
諦めないで欲しかった。
バスケが好きであることを。

「このピアスは青峰っちの為に開けたんじゃない」

これは俺の決意の証。

あの日、水色が、黒子が消えた夏の終わりに俺は誓ったんだ。
また彼にバスケを好きになって貰えるように頑張ること。
また笑ってくれるようにすることを。

「そんなんじゃないんだ」

だから青峰がどうとかカンケーない。
ただ俺は、あの水色が恋しかっただけ。

「そーかよ」

ほらね、神様は俺に微笑まない。


【道化師は笑う】


水色が恋しい、と黄瀬は笑う。
水色がテツのことだなんてすぐわかってしまった。

「このピアスは青峰っちの為に開けたんじゃない」

一人で呟いたんだろうから俺には気がついていない。

生ぬるい風に吹かれた金の糸が白い肌と一緒に夜でも映える。
白くて長い指が触れていたのは青いピアス。

何で青を選んだんだよ。
探せば水色なんて見つかった筈だ。
俺の為に開けたんじゃないんだろ?
だったらそんな顔してんじゃねーよ。

「そんなんじゃないんだ」

お前気がついてんのかよ、自分の顔。

どうして、そんな顔苦しそうな顔してんだよ。
どうして、何も言わねーんだよ。

「そーかよ」

思ったより興味なさげに出てしまった声に黄瀬が振り返る。
その顔は絶望したように顔を歪めて笑っていた。


end
 

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