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□二十日余りの月
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「あれ伊月?」
「……ひゅーが?」

現在の時刻夜の11時。
いつも待ち合わせしてるT字路で日向を発見した。

日向はと言うと俺を見た途端驚いたように目を見開き指差した。

「お前何でこんな時間に出歩いてんだよ!」
「そう言う日向こそもう11時なのに出歩いてんのさ」

言い返すように日向に言えば目を逸らしながら頬をかく。
日向の誤魔化す時の癖だ。

「俺は…、まあ寝れなくて散歩がてら」
「まあ俺は何となく月が綺麗だなって思ったら出歩いてました!」
「いやドヤ顔でいうなよ。…伊月こっち来い」

手を引かれてやって来たのはよく昔から遊んでた公園。
俺と日向とカントクは家が近かったからよく此処で遊んだっけ。

今でも使われている此処の砂場にはまだ作りかけの城があったり、使い古されたブランコが音を出して揺れている。

「日向あれ登ろ」

俺が指したのはジャングルジム。
ジャングルジムとは金属パイプの骨組みで出来た子供が登ったり、ぶら下がったり、座ったりして遊ぶためのアレだ。

「そう言えばこれで一回日向落ち掛けたよな」
「う、うるせーよ!何で覚えてんだよ」
「だってずっと一緒にいたんだもん。当たり前じゃん」

そう言ってからパイプに手をかければ子供の頃と違って易々と登れた。
日向も同じだったようで落ちることなく登れてた。
落ちたら笑ってやろーと思ってたのに。あ、でも主将に怪我されちゃ困るんだけどさ。

今の気候と言えばすっかり冷え込んで過ごしやすいと言うより寒い。
そんな俺に気がついたのか日向は羽織っていたパーカーを脱いで俺の方へ突き出した。

「寒いんなら上着持ってきとけダァホ」
「でも日向半袖じゃん」
「俺は伊月より頑丈に出来てるからいいんだよ!ほら」
「むー…。ありがと」

しぶしぶ受け取って袖を通すと少し手の長さが余る。何か悔しい。
すっぽりかぶれば日向の匂いがした。

「日向のにおいがするー」
「何!?マジか!」

ホントは大好き何だけどね、この匂い。

ブツブツ言ってる日向を余所に高くなった場所から空を見上げれば半分位よりも少し小さく欠けた月が淡く光る。

「日向知ってる?今の時間の月ってね、二十日余りの月って言うんだって」
「二十日余りの月?」
「南の空に23時頃東の空に上る月のことをさすんだよ」
「お前何でそんなこと知ってるんだよ」
「辞書に載ってた」
「だろうな」

日向が呆れたように息を吐き出せば俺もつられて笑う。
俺と同じように月を見上げた日向はこっちを向いてポツリと呟いた。

「綺麗、だな」
「そうだね。……私もう死んでもいいわ。なんちゃって〜!」
「…お前意味わかって言ってるんだよな」
「もっちろん!」

愛してる、でしょ?

淀みなく言えば日向が顔を赤くした。暗くても月明かりでわかるよ。

あ、でもやっぱり暑いや。恥ずかしかった。今更ながらだけど。

「伊月」
「なぁに?」
「誕生日、おめでとう」
「うんありがと!」

俺は嬉しさ殆ど恥ずかしさちょっとの勢いで日向に抱き付くと、ジャングルジムの上だと思い出して慌てて日向がバランスを取る。
それに近い距離で二人して笑う。

二十日余りの月が重なる俺達を照らしていた。


【二十日余りの月】


(で日向誕プレは?)
(あ〜、それなんだけどよ)
(まさか用意し忘れた?)
(ちげーよ!いや違わなくはないんだけど…)
(ないんだけど?)
(……今週の日曜日開けとけ)
(うん!)
 

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