965U

□昔の俺へ未来の俺へ
1ページ/1ページ

古びた東京じゃお目にかかれそうもない駅のホーム。
空は光が眩しいほど晴れていて、光影をはっきりさせている。

あるものを目にした途端ああこれは夢なんだってわかった。


だってそこには昔の俺がいたんだから。


【昔の俺へ未来の俺へ】


服装はカッターシャツにズボンと俺と変わらない出で立ちだったけど、プリントされた刺繍は中学のものだった。
それに今の俺より数cm低い。

昔の俺は我ながら薄っぺらい笑顔で笑うと声をかけて来た。

「……久しぶり?」
「や、久しぶりってのもビミョーだよな」
「確かになー」

二人してケラケラと笑うと過去の自分は疲れたのかホームに備え付けられた椅子に座る。

見上げた昔の俺は澄み渡ったその瞳で俺を見つけてた。

「ほんのちょっと変われた?」

ってあの日の自分が尋ねた。

何も言わないで泣きもしないで微笑んでた。
俺がずっと嫌いだったあの日の俺。

自分だからわかるんだ、コイツの瞳はホントは澄み渡ってなんかないって。濁って何も見えないくらい。

嘲るように俺は笑うと

「ほんのちょっと強くなれた」

とか嘘をついた。
その様子に昔の俺がムッと目を尖らせる。

そりゃそーだよね。絶対俺がやられても同じ反応するよ。

少し考える素振りをして昔の俺はなおも続ける。
武器である瞳を逸らすこともなく。

「じゃあさ、未来の俺は光は手に入れられた?」

俺の光は――…、

馬鹿みたいにおは朝信じてて、よくわかんない口癖を使って、変に几帳面で我が儘で。

でも超美人さんで何事にも人事を尽くして中途半端は許さないホントは優しい俺のエース様。

「出来たぜ」

自然と零れる笑みを隠そうともしない俺に昔の俺はニカッと笑って立ち上がった。

「だったらもう安心だな!」

トンと昔の俺が俺の肩を押す。
重力に逆らわず俺は線路の上に落ちていく。

垂直になったとき最後に見たのは青い透き通る空の色――…。





「いい加減に起きるのだよっ!」
「うわっ!」

不機嫌そうな顔で俺を見下ろしてくる緑間。

「ん、あれ真ちゃん?」
「もう朝なのだよ」
「家、だよね?駅のホームじゃないもんな?」
「何を寝ぼけているのだよ高尾。此処は合宿所だ」

呆れたような顔をされ、さっさと身支度を始める緑間に頭に残る夢に首を傾げる。

「あ、あれ…。そっか、そうだよね」

呟くように言った俺の声は聞こえなかったらしく、布団の上でんーっと伸びをしてカーテンに手を伸ばす。
勢いよく開けば光が差し込んで空が眩しい。

「さぁーて!今日もいっちょやりますかエース様!」

振り返って言えば当然なのだよと答える緑間に笑った。


end
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ