捧げ物、頂き物

□あの空に帰るまで
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俺の命は最初っから期限付きだった。

人に言わせたら当たり前だと言われる話だけど俺は死ぬ日を知っていたから。


高校生に上がったある夜、アイツはいきなり現れた。

「降旗光樹。
キミは死ぬ」
「……は?」
「と言っても今じゃない。
三年後の今日、キミは死ぬ」

アイツは暗闇に溶けそうな真っ黒な服に翼。
月明かりに照らされた体に合わない鎌が鈍色に光る。
そのせいか髪の鮮やかな赤がよく栄えた。

状況が飲み込めない俺にソイツは淡々と告げた。

「ちょっと待って。君は何?」
「死神さ。キミの命を刈りに来た」

漫画やアニメでしか見たことない状況に俺の頭は混乱する所かスッと冷えていった。

「…やけに落ち着いてるね」
「知り合いが死ぬって聞くより自分が死ぬってわかってた方がましだよ」

赤司は色の違う瞳を見開くとキミは変わった人だねと呟いた。


だってそうだろ?
大切な人が死ぬよりは自分が死んだ方がいい。

何も出来ずに見てる何て辛すぎる。そんなの見殺しにしてるのと同じだし。


「だったら俺、どうやって死ぬの?」
「それは教えられない」
「…何で?」
「もし仮に教えたとしたら、それから逃れようとして、運命が変わってしまうかもしれない」

別にそんなつもりないのに。

赤司はその代わり、と続けた。

「キミの願いを一つだけ叶えよう」
「何でそんなことをするんだよ?お前死神なんだろ?」
「…ボクがそうしたいと思ったからさ。理由なんてない」

おどけてみせるソイツはやたら美形だったのは平凡な俺からしたら羨ましかったけど。

俺はまだ死ぬ気はないからこの死神多分長い付き合いになるんだろうな。

「んー…じゃあ願い関係ナシに一つだけ聞いていい?」
「まぁいいだろう。何だい?」
「名前は?」
「……赤司征十郎」

それから赤司と名乗る死神は俺の死ぬ日まで傍にずっと居た。





命を運ぶとは運命を運ぶことだ。

死神は命を刈るためにその鈍色の鎌を持つ。
死者を弔うように黒の衣を纏う。
後ろにはそれに見合った黒い翼。

ボクは死神。

ずっといつ生まれたのかわからない頃から命を刈っている。

ある日出逢った降旗光樹と言う少年は不思議な少年だった。
自分では平凡平凡だと言うが(確かに容姿勉学運動神経共に平凡だった)、彼は死の宣告を怖れなかった。

誰だって死ぬことは怖い。

それなのに彼は笑う。
命を刈る存在であるボクにさえも。

そもそも死神が刈る命は罪を重ねた者だ。なのに彼にはその様子がまるでない。

「光樹は死ぬのが怖くないのかい?」
「怖くないわけないじゃん」

即答した彼は震えていた。
自分の腕で震える体を抑えつけてニコリと笑う。


「でも赤司が刈ってくれるなら死ぬのも怖くないよ」


ボクは彼を抱き締めていた。
冷たいだけ腕の中の彼はとても小さく思えて暖かくて。

笑顔が震えてその瞳から涙が零れ始める。


「怖い…っ!俺だって怖いんだよ…!」


人間らしさを見せた彼にボクは内心ほっとしていたのを覚えている。

自分の気持ちより残される人を優先して、気持ちを押し込めて。
ボクは彼が誰よりも優しいのだと思った。


その時初めて彼はボクの目の前で泣いた。



きっと欲しがったんだ。

誰よりも優しい心を持つ綺麗な心を。
罪の意識を持つボクら死神には彼の心は眩し過ぎるから。




命を刈る時にはボクがキミを殺さなければならない。

何度も何度も刈って来た鎌が鈍色に光る。




どうか苦しまずに愛しいキミを、この手で。



命が尽きるその時に、ボクが空へ連れて行ってあげるために。




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