捧げ物、頂き物

□もう、誤魔化せない
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「じゃ先失礼しまーすっ!!」

声を張り上げ俺しか残っていない部室を高尾と緑間は出て行った。高尾は変わらず笑顔だし、緑間は不機嫌そうな顔をしている。

俺は先生に報告するために職員室に向かえば体育館ではまだ宮地がボールを突いていた。
後で止めればいいだろうと教員棟へ足を進めたのは先程のことで今は再び体育館のドアを開けた。

宮地も幾ら練習熱心でも時間が時間だ、いい加減止めた方がいいだろう。

「みや…」

体育館の中は静まり返っている。
そして自主練しているはずの宮地の姿はなかった。

きっと宮地も頃合いと見て部室に戻ったんだろう。

だが部室のドアを開けても

「…いないな」

宮地の姿はなかった。

でも荷物はある。だから戻ってくるはずだ。

鍵は俺の元にあるし、宮地を置いて帰るわけには行かない。

「……」

そういえば今日、いや、最近、宮地はどことなくぎこちなかった。
努力で積み重ねた技にキレもなければいつもの罵声も聞こえない。
つくづくおかしいのだ。

「……」

俺が監督と話していた時宮地は好きな奴が出来た、と叫んでいた。
フォローに回る高尾に鋭い目線を向ける緑間。
生憎此方からは宮地の表情は見ることが出来なかった。

今だって宮地に鍵を任せてさっさと家に帰ればいいのに、俺は帰ることをしない。

何というかほっておけなかった。
罵声ばかり飛ばし、本当は素直になれない誰よりもバスケが好きだと言うアイツを。

俺は未だにこの気持ちに名前を付けられずにいた。

「…遅いな」

顔を洗って来るにしては遅過ぎる。
何処かに寄ろうと思っても開いているのは教員棟と此処しかない。

もう日も暮れて長い。
この寒空の中、外に長居しているとしたら身体に良くない。

「仕方ない。迎えに行くか」

俺は自分のコートを片手に部室から出た。




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