捧げ物、頂き物
□理性との戦い
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見慣れた家の前でインターホンを躊躇なく押す。
いつも以上にデコられたメールが俺の携帯に届いて内容は要約すると『家に来い』とのことだった。
仕方ねぇなと思いながらも来てしまう俺はやっぱり伊月に甘いのだろう。
「こんちわー」
「あら順平君いらっしゃい」
「綾さん」
出て来たのは伊月のお姉さんの綾さんだった。
その後ろに伊月の姿はない。
「いづ…俊は?」
「俊ならちょっとおめかし中なのよ」
「…はぁ?」
おめかし?伊月が?
いつもはラフな服で遊んだりするのにか?
首を傾げた俺に綾さんは綺麗に笑い(この場合ニヤニヤと言う表現が正しいだろう)、俺を家にあげた。
「まあいいから俊の部屋で待ってて」
スキップしながら綾さんは居間の方へ向かうが、俺は気にせず二階にある伊月の部屋に入る。
相変わらず綺麗に整頓された部屋だ。その景観を壊すようにズラリと並ぶギャグのネタ帳が気になるのだが。
机の上には菓子とジュースが置いてあって(多分伊月が準備したのだろう)勝手一つクッキーを失敬する。
「お、上手いな」
口の中にほんのり広がる甘味が癖になるような味だ。
何処のメーカーだろうか。後で伊月に聞こう。
また一つクッキーに手を伸ばすとドアの向こうが急に騒がしくなる。
外からさっさと行きなさいよ!嫌だって言ってるだろ!お兄ちゃん往生際が悪いよ!と聞き覚えのある三人の言い争いの声が聞こえた。
足音を聞く限り此方へ向かってるらしい。
その声は綾さんと妹の舞ちゃんと伊月だ。
でもあの伊月が騒ぐなんて珍しい。
「どうしたんだよいづ…」
俺はドアを開いたとしたまま思わず固まってしまう。
目の前にいた伊月は俺を目に捉えた途端、一気に顔を赤くした。
伊月はカーキー色のセーターにセーラー服、胸にはしっかりリボンがついていた。黒のニーソが白い足に眩い。
端的に言えば女装していた。しかも有り得ない位似合っている。
「あ、う、えっとこれは…」
顔を真っ赤にし慌てる伊月に隙ありと舞ちゃんが背を押した。
「わっ!」
その拍子にバランスを崩した伊月はそのまま俺の方へ倒れてくる。
「うおっと」
腕の中に入れて受け止めてやれば伊月はいつもより少し甘い匂いがした。
二人を見ればニヤニヤしたまま顔を見合わせる。
そんな表情のまま綾さんは
「じゃごゆっくり〜。私達出掛けるからぁ。舞、行くわよ」
「うん!」
と舞ちゃんを引き連れてさっさと下へ降りて行ってしまった。
あまりの素早さに呆気にとられて俺達はきっと同じ間抜け面をしていたと思う。