965long

□その純粋な残酷さすら憎めずに
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久々に晴れた穏やかな昼下がり。
賑わう教室の中、俺はぼんやりと空を眺めていた。

珍しく拝めた太陽は広い空を煌々と照らし続けている。

その光が当たって気持ちいい。
何もかも忘れて眠り落ちそうな程に。

「伊月君!」

落ち掛けた意識は呼ばれる声によって遮られる。
のろのろと顔を上げれば廊下でこっちに向かって手を振るカントクがいた。

立ち上がって廊下に行くと一枚の紙が差し出される。

「はいコレ今月の日程表ね!」
「ありがとカントク」
「もうっ部活じゃないんだから名前で呼んでよ。幼なじみでしょ」
「…相田さん」

意地悪して言えばカントクは拗ねたように膨れた顔をして俺の言葉を訂正する。

「リコ、でしょ。俊」
「…リコ」
「よろしい」

リコはない胸を張り満足げに笑った。

リコ、何て呼んだのはいつぶりだろう。中学校を卒業して以来だろいか。

そうなると長らく日向も名前で読んでいない気がする。
最後に日向の名前を呼んだのはいつだったかな。


一度日向を思い浮かべると止まらなくて思い出すのは昨日のこと。

リコが好きで好きでたまらないというような顔していた日向。

俺はどんな顔をしていいかわからなくて笑った。

親友の恋を応援する友人として。

俺だって日向のことが好きなのに、叶わない恋だってわかってたはずなのに。


元々男の俺に勝ち目何てあるはずないんだけど。


「俊?」
「リコは木吉のこと好き?」
「ばっ!何言ってんのよ!」

顔を真っ赤にして照れてる所も可愛い、なんて。
日向が好きになるのもよくわかる。

慌てていたリコは一度息を吐き出し、微笑んだ。

「…好きよ。ほっとけないくらい」

幸せそうな顔をして頬を弛ませるリコを純粋に女の子として可愛いと思った。

「昨日ね、鉄平に告白されたの」

じゃあ、日向は失恋したってこと?

急に肩にあった緊張が解れた気がした。

その事実にホッとしてしまった俺は最低だ。
自分の思い通りに日向が失恋してしまうのをわかって喜んでしまっているのだから。

そしてそれは木吉とカントクの恋が叶ったからではなく、少しでも日向に付け入る隙が出来たから、とか。


自分の心がこんなに汚いものだとは思わなかった。


こんなに醜い俺に日向を好きになる資格なんてないのに。



馬鹿だなぁ、俺。



【その純粋な残酷さすら憎めずに】



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