965long

□掻き乱される胸の内
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※日向目線


迫る最後のIHに向けてまた木吉とカントクとミーティングを行った。
昨日もやったからそこまで決めることもなくてあっさり終わる。

部室に荷物を置いていた俺と違って、ちゃっかり木吉は鞄持ってやがって、そのままリコと二人で帰った。

出そうになる溜め息を飲み込みながら部室のドアを開けば上半身裸の伊月がいた。
どうやら伊月一人のようで俺は伊月に話しかける。

「火神達は?」

いつも二人で練習して帰る後輩達は今日は何故か体育館にも部室にもいなかった。

「明日古典のテストあるからって帰った」

流石に伊月は引き締まってはいるが、元から肌が白くてその色が目に眩しい。
シャツに腕を通しながらそう言って伊月は俺に背を向けた。

ジッと見てるのもアレだから自分の荷物に目を向ければ、嫌でも思い出す木吉の清々しい顔。

『リコ、一緒に帰ろーぜ』
『え、何で?』
『もう暗いし女の子を一人で帰らせるわけには行かないだろ?』

さらっとこっちが恥ずかしくなるような台詞を言いやがって。
今頃アイツらは仲良く帰ってるんだろな。


思わず出た溜め息に伊月が振り返る。

「日向、どうしたのか大丈夫?」
「いや…、まぁ。聞いてくれるか?」


昨日のミーティングの後木吉と部室で木吉と好きな奴が同じだったとわかったこと。
堂々と宣戦布告をしてきた木吉は、見事に今日一緒にソイツと帰って行ったこと。
気恥ずかしいからリコの名前は伏せたけど。


伊月は用意を終わらせたようで俺の前に座って首を傾げた。

「どんな子なの?好きな子って」

その拍子に伊月からほのかに柑橘系の香りがして、胸が少しだけ疼いた。


付き合いの長い伊月は俺の交友関係はだいたい知ってる。逆もしかりだが。

しかも相手はいつもいるリコだ。
何て言えばバレないんだ?


ぐるぐる考えていたら浮かぶのはリコの笑顔。
その隣ではいつだって伊月が笑っているんだ。


暖かい思い出と一緒に出て来た言葉を零す。


「ずっと、俺を支えてくれた奴だ」

「日向はその子のこと、本当に好きなんだね」


伊月は綺麗に微笑む。
誰もが綺麗だと褒め称える笑顔で。

その顔が記憶の中の伊月の笑顔とは全く違って見えた。


「日向の、思うようにすればいいと思うよ」

「…伊月?」


伊月の後ろに見た空からは雨が降り注ぐ。
雨雲の隙間から覗く月が泣いているように見えて胸が痛んだ。


【掻き乱される胸の内】


何でお前はそんな泣きそうな顔してんだよ。


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