965long

□独り残され幸せだとでも?
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※後日談


学校で黒子はまるで初対面のように俺に接してきた。
あの、再び逢えた入学式の日は桜の下では空色の瞳を緩ませていたというのに。

その黒子はというと体育館では先輩に驚かれ影の薄さを発揮していた。

「黒子ちょっと来い」
「火神君!?」

黒子のほっそい腕を引いて体育館裏まで連れて行くが黒子はわけがわからないと瞳で訴えてきた。

「お前、どーゆーつもりだよ」
「何のことですか?」

やっぱり黒子はしらじらしく知らないフリをする。

でもあの夏の日に見た水色も笑顔も冷たい感触も残ってる。


「わかってんだよ。てめーがあの時の『黒子』だって」


またいきなり現れたと思ったら自分は幻の六人目とか言い出すし。
キセキの世代には確かに心惹かれた。
でも何より近くにいる黒子のことが一番気になっていたのだ。

「………」

黒子は何も映さない瞳で俺を見上げる。



黒子が俺の目の前から消えた後、ずっと捜していた。
どこかでまたひょっこり現れると思ってた。

なのに黒子は現れなくて。

生きてるのか死んでるのかもわからない。

もしかしたらもう一生逢えないかもしれない。


なのに、


「…っ、お前に」



まるであの夏の日をなかったことにしようとする黒子が腹立たしかった。



俺は黒子を睨む。
黒子は物怖じをせずひたすら俺を見ていた。






「お前に独り取り残された苦しみがわかるかよ」






静寂が包む。

聞こえるのは蝉の音ではなく、声とボールの弾む音とスキール音。



黒子を見ていられなくなって俺は俯く。

暖かい手俺の頬に触れた。

俺より小さな白い手は黒子の手だった。

促されるように黒子を見るとあの日のように微笑む。



「火神君。僕は此処にいます。勝手に消えたりしません」



風に流れてきた桜が舞う。

青から夕焼けに変わり始めた空が俺達を優しく包み始めた。



「君の、火神君の影になると決めましたから」



空色の髪が揺れる。
その髪はもう空に透けることはない。


「好きだ。もう何処にも行くな。ずっと俺の傍にいろ」

「……はい」


黒子は顔を赤くすると、あの日のようにふわりと笑った。



【独り残され幸せだとでも?】



ようやく合わさった唇はあの夏の日と違ってとても暖かかった。




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