965long

□最期は全部キミのもの
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「ただいまー黒子」
「おかえりなさい」

変わり映えしないと思っていた病室は一人誰かがいるだけで随分と変わるものだ。

黒子は窓の外の眺めていた青空から目を離し、ドアから入ってきた火神に出来る限りの笑顔を見せる。

「どうでした?怪我の様子は」
「順調だから様子見で後3日で退院だってよ」

火神が元気だから分かりにくいが、バスケで足を多少怪我していたのだ。
後遺症もなくしっかりバスケはまたやることが出来ることに火神はウズウズしていた。

「あと、3日…」
「3日がどうかしたのか?」

火神の言葉を反芻するように黒子が呟いたのに火神が反応する。


何故か嫌な予感がしてたまらなかったのだ。
そう、言うならば足元から何か崩れていくような――…。


「火神君。僕は君に言わなくてはなりません」
「何を、だよ?」

真っ直ぐな水色の瞳を火神に向けて淀みのない口調で言った。

「僕が此処にいられるのは良くてあと……3日。君の退院までです」


いられるのは後3日…?
と言うことは黒子は後3日で此処からいなくなる…?


間近に迫る死の気配に火神は口の中がカラカラになっていくのがわかった。

「嘘、だろ…」

漸く出た言葉がそれだけだったが情けないと思うことさえ出来なかった。

信じられないと首を振る火神に全てを悟り、理解した上で黒子は窓に向かった歩いて行く。

「ほら、見て下さい」

黒子が此方を振り返るとその違いが鮮明に映った。

広がる青空が黒子を介してより透けて見えるのだ。

最初見えた時は辛うじて透けて空が見える程度だったのに。

「僕は君以外誰にも見えません。だから……」

儚くて、今にも消えてしまいそうな笑みが火神を捉える。

失いたくない、まだ傍に居て欲しいと思うのに現実は残酷だった。

「だから僕の最期は君のものです」

もうタイムリミットは間近に迫っていた。


【最期は全部キミのもの】


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