965long
□この心、癒えそうに無いよ
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俺は幽霊が嫌いだ。
カッコ悪いからあまり言いたくないが、マカフシギ、だっけ?まあそんなものはよくわからないし。
兎に角俺は幽霊が嫌いな筈だった。
でもこの状況は何だろう。
「火神君。このバッシュよくないですか?」
膝に広げているバスケ雑誌を覗き込んでいる火神より小さな、一見自分より年下に見える童顔の顔が見上げてくる。
「だな…」
生返事を返すと黒子がむすっと頬を膨らます。
案外無表情だと思われたのは嘘で表情豊かだ。
ここの下りだけ聞けば全く普通だが、一つだけこの病室は異質だ。
隣で見上げてくるコイツ…黒子は一見普通の中学生だ。
物にも触れるし、地に足もついている。
だが透けているのだ。…身体が。
彼は自分を幽霊だと言った。
「ホントお前幽霊っぽくねーよな」
「そうですか?」
コテンと首を傾げて見せた黒子はやっぱり透けている。
幽霊らしい所と言えばそれと、突然消えたり現れたりすることくらいだ。
「黒子、お前どうして幽霊になったんだよ」
ぽろっと零してしまった時、しまったと火神は頭の中で反芻した。
幾らアメリカ帰りでお馬鹿だとよく言われる火神でも、幽霊が出るのは未練があるからだと知っている。
黒子も、きっと未練があったからこの世に残ったのだろうか。
黒子は俯いてしまって顔が見えなくなってしまった。
物静かになった病室に蝉の音が響き渡る。
気まずくなって火神が口を開き書けたとき黒子が口を開いた。
「わかりません。…ただ、何かに絶望して…、そう影が光を失うような出来事があったんだと思います」
窓から差し込んだ光が急に雲で覆われ、黒子を照らしていた光が影となって覆われていく。
顔を上げた黒子は本当にわからないと言った表情で火神を見つめた。
「思い出そうとする度に胸が痛むんです」
水色のシャツの上から胸を掴んでポロポロ零れた涙は触ることは出来なかった。
その代わり細くて壊れそうな身体を抱き締めたら、生きていないように冷たかった。
【この心、癒えそうに無いよ】
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