軌跡処

□カゴのなかの世界
1ページ/1ページ

カゴのなかに、

二羽の小鳥が寄り添っていました。

カゴのなかは平和で、

二羽の小鳥にとってカゴのなかは、

二羽だけの世界でした。

二羽はそれだけで幸せでした。

でもある日一羽は気が付きました。

『世界は他にもあるんだ。』

と。

その一羽は外の世界に憧れを持つようになりました。

もう一羽のことも忘れて。

他に世界があると知った小鳥は、

外の世界は怖いことだらけだと言うことと、

カゴのなかが絶対に安全だということも、

わかっていました。

このまま二羽だけの世界にいたほうが幸せだということも。

それでもやはり一羽は、

もう一羽の事も忘れて、

外の世界を望みました。

その一羽は、

思うだけでした。

ただ、ただ、思うだけでした。

気が付けば、

カゴの扉が開いていて、

いつの間にか、

もう一羽の小鳥は飛び立っていました。

一羽が外の世界を思ってる間、

それを見ていたもう一羽も、

外の世界を思っていたのでした。

外の世界に飛び立った一羽は、

もう戻ることはないでしょう。

それをわかっていながら、

残された一羽は、

開いている扉を、

恨めしげに見つめるだけでした。

『ここにいても寂しいだけ。』

それはわかっていました。

それでも安全なカゴを出ることが、

怖くて怖くて仕方ないのです。

残された一羽は、

その恐怖と寂しさから、

震えるだけでした。

震えて、『早くこの寂しさが無くなれば良い。』と、

わがままな考えを、

思うだけでした。

きっとずっとその一羽は、

そう思って過ごすのでしょう。

二羽だけの幸せだったあの世界を思い出しながら。



end

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ