宙に舞う迷い心

□影が光。
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ねぇ、なんでここに居るの。

遠くに見える姿に腫れぼったい眼をさらに擦った。
万事屋からかなり離れたと思った時、本格的に雨が降り始めて、近くにあった古ぼけた本屋で雨宿りをしていた。
昔からここで銀時の帰りをずっと待っていたっけ。
いつもぼさぼさの髪をさらにぼさぼさにして慌てて駆け寄ってきた。
その姿に私は微笑んでいたのだけれど、今だけは絶対に見たくはなかった。なのに、

「・・・あの、人は。」
「ただの客だっつぅの。」
軒下にも入らずに銀時は弁解を始める。そんなことされると、私が悪いみたいじゃない。
そう思いながら銀時の声に耳を澄ます。
特別に親しげだったように見えたけど、と口から出そうになってしまった。
それなのに、私になんで声をかけたの。慰めたかったの?馬鹿にしたかったの?
けれど、今となっては私には関係のないこと、そのはず。

「なぁ、なんで答えてくれねェんだよ。」
「ねぇ、なんで答えなきゃいけないの。」
「おま、「私は!」

もうこれ以上の言い訳を聞きたくなくて言葉を遮った。

「私は、間違ってた?別れよって言ったのは銀時の方じゃない。
理由も言わないで、私が頷いたらすぐに何処かへ行っちゃったじゃない。
ねぇ、答えてよ。私がいけなかったの?待ってちゃ駄目だったの?追いかけた方が良かったの?」
「あ、のな。」
「この際はっきりして。嫌い?好き?2択で選んで。そしたらもう諦めるよ。」

本当に諦めきれるのか。
自分で言っておいてなんだけど、そんな確証どこにもない。
何年間も待っていたのに、小さな望みにかけていたのに、また、たった一言で終わってしまうの?
答えを聞きたくなくて、俯いた。
さっきの銀時は、きっとこんな気持ちじゃなかったんだろうな。
そう思うと、怒りで引っ込んでいた涙がまたジワジワと押し寄せてくる。

「好きだよ。・・・好きに決まってんだろ。」

頭に重みを感じると、すぐにその言葉が降ってきた。
冗談だ。と、さっきみたいに無視することは出来なかった。

「ほ、んとう?」
「っ2択で選べっつったのはお前の方だろ。」
「だ、って。」
「あのな!この際言うけどな。俺は別れた時だってお前のこと大っ好きだったんだからな。分かれよ!てか気付けよ馬鹿!」

頭が真っ白になった。
あ、れ。私は何を悩んでいたんだろう。
え、取り越し苦労だったの?空回りしていただけ?
私だけが大騒ぎしていたと思うと、無性に腹が立った。

「・・・馬鹿。」
「あ?」
「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!もう帰る!」
「ハァッ!?意味わかんねぇよ!」
「うっさい馬鹿!」
「何回馬鹿っていうんだよ!てか馬鹿って言った方が馬鹿なんですぅ!」
「今銀時だって言ったじゃない!」
「餓鬼かてめぇは!」
「餓鬼で悪いか!」

い〜、と、まるで子供のようにしかめっ面をすると、一気に銀時が吹き出した。

「ちょっと!唾飛んだ!」
「わりぃわりぃ。思わずな。」
「思わず唾飛ばす奴がどこに居るのよ!」
「ここに居るに決まってんだろ!」
「黙れっ!」

その後お詫びに団子奢ります券をむしり取ったのは言うまでもない筈。

(今までの時間はなんだったんだろう。いや、この時間があったからこそ、この関係は、)
(でも、これでもう大丈夫。何があってもきっと、)

『守ってみせるよ。』

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