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□初めてのおつかい。
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※連載の番外編。



世の中は毎日新しいニュースに塗りかえられ飽きない生活を送る。だが人々に影響を与えるものというのはそこまであるものではなく、平和に過ごす毎日。あぁ、自分も一度平和という文字に守られながら生きてみたかったよと思う。


「はぁ〜〜〜〜!? 俺を何だと思ってやがるんだあのバカは。」


久しぶりのオフで、家にいた×はメールの送り主からの内容に顔を歪ませていた。内容は忘れ物を学校にいる自分まで届けて欲しいというものだった。シカトしようと携帯を閉じようとしたがまだ下に文があり読む。


「何々…、この間授業で使うはずだった雪男の道具壊したの見てたぞ…。」


ピタッと固まり冷や汗がダラダラ流れる。本能的にやばいと感じる。雪男のキレた想像が頭に浮かぶ。立ちあがり着ていた甚平を脱ぎ捨てお馴染みの服に着替えていく。


「まずは男子寮か…。」


はぁと重いため息を吐いてだんし男子寮への鍵を使い部屋を出た。
無事燐が言っていた物を見つけ出し学校へ行こうと鍵を差し込みドアノブを回そうとする。だが、そこでピタっと止まる。


「…そういえば、学校に行ったことねぇな…。」


というか、俺は入れるのか? と唸り始めた×。学校との関連が無なので行くに行けないうえ燐のいる教室がどこなのかもわからない。


「あ、そうだ。」


鍵を抜き違う鍵を差し込みドアノブを回し現れた部屋に入る。そこは目に悪い配色が施された×が嫌うとした人物の部屋だった。


「おーい、いるかー理事長さんよー。」


ずかずかとメフィストの部屋に入るも珍しく目当ての人物の姿は見えない。×は嘘だろう…と頭をガシガシかく。


「こんなときに何でいねえんだよ…。」

「何か御用ですか?」

「うおぅ!」


背後から行き成り声が聞こえ驚き振り返ると見なれた尖がり頭。目線を合わせること数秒。相手が首をかしげると再び驚き距離を置く。


「な、何でお前が…!」

「兄上はお仕事でいません。」


動揺している×とは裏腹に坦々と話すアマイモン。警戒している様子はなく×の瞳を見つめる。一応ぐっと構える×。


「伝言はボクが聞くよう頼まれているので。」

「お、お前がかよ! あいつ何考えてんだ!」


ケロっとインパクトある言葉を言うアマイモンに思わず突っ込んでしまう×。ばかばかしくなった×は部屋を出ようと再びドアに戻ろうとくるっと振り返る。その瞬間、背中に猛烈な衝撃を受け床に倒れ込む。


「うおっ!! てめぇ何しやがる!!」

「帰らないでください。」

「はぁ!?」

「やっと暇つぶしが来たと思ったのに…。」

「んなの知るか! 離せ!!!」


後ろからタックルされた状態の×は一向に離す気配のないアマイモンに怒りを覚える。さっきから調子を狂わせっぱなしで苛々が募っていく。ばたばたと力の限り暴れるが悪魔の力には到底適うはずもなく見事に押さえつけられてしまう。


「いつもは兄上ばっかりずるいので、今日はボクと遊んでください。」

「意味わからねぇ! 俺は急いでんだ…っおい! てめぇどこに手つっこんでんだ!」


アマイモンの右手は×のジャケットの中をまさぐっていた。暑かったせいもありジャケットの下は何も着ておらず、半分まで開けられていたので手は自由に動き回る。不明な行動に頭を捻る。


「今日はボクといっぱい楽しみましょうね。」


何をと発する前にぞくっと鳥肌がたち本能的に逃げろと脳が信号を出している。左手に力を込め肘で思い切りアマイモンの鳩尾を直撃した。体は人間なので効いたらしく力が一瞬緩む。その隙にするりと逃げだし部屋を飛び出す。


「あぁ…逃げられてしまった…。部屋から出るなと言われているしなぁ…。」

「(あそこの兄弟頭イカレすぎてる!! これだから悪魔は嫌いなんだあああ!!)」


長い廊下を走り抜け下へ下へと階段を下りていく。授業中らしいのか、人に会わずに中庭へ出ることができた。全速力だった×は足を止めて息を思い切り吸う。大量の汗を流しながら学校案内の看板を見つけ燐の教室を探す。


「はぁ、はぁ…どこだよあいつの教室…。無駄にでけぇなここの校舎…。」


まるで目力で看板を焼き殺すかのように睨み付ける。見て頭で理解しようとするものの、第5校舎まであるので混乱状態に陥る。唸っているとここでまた閃く×。携帯を取り出し電話帳からある奴に電話を掛ける。


「…………出ねぇ。」


中々出ない相手にため息を漏らす。それもそのはず、掛けている相手は奥村雪男。燐に掛けるよりこっちがいいと思ったが出るはずもない。彼もただ今授業中で電源は切ってある。2,3回掛け直すも諦めた×は近くにあったベンチに座りとりあえす燐にメールをして取りに来るように頼む。待っていると授業を終わりを告げるチャイムが鳴り響き校舎内が若干話し声で騒ぎ出す。


「(俺、ここにいていいのかな。)」


体育を終えたのか体操服姿の生徒がぞろぞろと×の前を通り過ぎていく。生徒たちは×を見るたびひそひそと話したり一瞥しながら歩いて行く。時には指をさしてくる子もおり×は困っていた。


「(早く来いよ馬鹿燐…!)」

「あの、教員の方ですよね?」


いきなり何だと思い前を向けば垢抜けてない3人の女の子が立っていた。目をきらきらと輝かせ好奇心がむき出しだ。


「(教員…そっちの方が都合いいか。)あ、まぁ。新米だけど。」

「今年からですよねー。見ない顔だもん。」

「何の教科?」

「えっと……………生物?」


燐に頼まれていた物の中にあった教科書を咄嗟に答える×。そんな×におおーとどよめきが彼女たちから発する。何事かと歩いていた生徒達も足を止めて×の周りに集まってくる。


「生物なんだー! 1年のかな? あたしのとこ着たことないし。」

「あ、そうだ。あたしわかんないとこあったんだよねー!」

「先生の髪の毛の色すごくない? 地毛?」

「あ、あの…。」


大変なことになったと顔を引きつかせる×。ざわざわと騒ぎ立てる生徒達を前に足早とその場から逃げだす。追いかけることはなくほっと一安心する。携帯を取り出そうとした瞬間、視界に見なれたメンバーが入った。


「あ、霧隠先生や!」

「げ。」


あからさまに嫌な顔をとる。さっきの生徒同様体育だったらしく体操服姿の志摩、子猫丸、勝呂とお馴染みの3人が近づいてきた。


「何で先生が学校に? 教員ってわけでもないやろ。」

「好きでこんなとこ着てんじゃねーよ! あ、そうだ。お前ら燐にこれ渡してくれねえ?」

「何やこれ…。教科書やんけ。先生忘れ物届けに来たんですか。」


まるで保護者ですねと、言った志摩の頭をぐりぐりと拳を作って練りこむ。刑罰が終わり手を離し帰ろうとしたところ右手をがっちりと勝呂が掴み歩行を邪魔される。


「先生が渡してください。」

「ケチだなぁ!」

「奥村君のクラス僕ら知りませんし…。第一僕らこれから着替えて昼食とったらすぐに移動教室で準備しなきゃいけなくて、暇ないんです。」


子猫丸の一言でぐっと黙りこむ×。学校なんて通ったことがない×にとって学校生活がどのようなことかわからないが、大変なことなのだと感じしぶしぶ先ほどまで持っていた物を返される。口を尖がらせ拗ねていると志摩が騒ぎだし、同時に携帯が鳴る。


「あ、こら馬鹿!! いつまで待たせるんだ!!」

『それはこっちのセリフだ! 何処にいんだよ!!』

「てめぇ、持ってきてやったのにその言いぐさは何だ!!」

「先生も奥村君も、先に会いに行きましょうよ。」


そう言われはっとした2人は通話しながらようやく会え届けることができたのであった。苛々していた×だったが、満面の笑みを浮かべた燐を見て仕方ないと自分も笑うのであった。



初めてのおつかい。

(後日、校内で少しの間×の話題が上がったのと、塾生からのおつかいが増えたのであった。)

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