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□好きだったんだと、いま気付いた。
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※連載の番外編。
初めて会ったときは、純粋に綺麗な人だと思った。髪の色が鮮やかで太陽に反射したときは一段と目立っていた。たれ気味の瞼から除く瞳はすごく色っぽくて男の人なのにフェロモンを小学生ながら感じた。だけどそんな第一印象が一瞬で打ち砕かれた。性格は俺が最も苦手する性格で一緒にいて話すだけで苛々が募る一方だった。不真面目で酒豪で面倒くさがり…その上俺をあだ名で弄ってくるのが一番腹が立つ!
そんなことを思っている頃、ようやく任務に慣れてきたときだった。
「…というわけで、今回はこの4人で任務に行ってもらう。」
「はい!」
「ふぁ〜い…。」
次の任務には祓魔師2人に俺と×さんが一緒だった。眠そうに眼をこする×さんを一瞥し俺らは任務場所へ向かった。
「霧隠さん寝むそうですねー。」
「いやーデスクワークは苦手なんですよね〜。眠気覚ましに酒飲んでたら朝になってて。」
あははと談笑する先生同士の会話に妙にいらっとする。最終的に書類ができてないことがよくわかる話に意味なくため息を吐く。肝臓が大変なことになっていることに気がつかないのかこの人は…。やはり嫌いだ。必要最低限のこと以外は話さないようにしているのに平然と話しかけてくる×さん。
「最近、獅郎何してる?」
しかも決まって父の話題。まぁ、父さんの話はいくら話しても尽きないからいいのだがなぜか俺は話したがらない。どうしても胸がもやもやして口が開かなくなる。
「…相変わらずですよ。この間と同じです。」
「だよなー。最近姿見せねえってことはまーた教団からの書類溜めて缶づめ状態ってとこか。」
頭の中で父さんの姿を想像している×は悪戯っぽくも優しく笑う。父さんの話をしているときの×さんの笑顔は綺麗だ。他で見せる笑顔とは違う愛情がこもっているのがわかる。俺はそんな×さんの笑顔が好きだ。だけど、笑いながら父さんの話す×さんの姿を見ると胸が苦しかった。×さんが父さんに特別な感情を抱いていることを知ったあの日から。
「では、ここで二手に分かれます。」
原因の場所に着き簡単にフォーメーションをおさらいする。そんなに難しい任務ではない。ちゃんとイメージした通り動けばいいだけ。もう何度もやってるんだ。下級悪魔なんてすぐ倒して終わらせよう。
「油断すんじゃねえぞ、ビビリメガネ。」
そう言いながら去って行く×さん。むかつく!腹を立てているところを男の祓魔師さんに連れられ草むらで身を隠し任務がスタートした。この任務で×さんをぎゃふんと言わせてやる。悪魔をおびき寄せる準備が整い見張りをする。虫の声や葉の音が聞こえるなか、不自然な音が聞こえ始めた。悪魔の鳴き声だ。ゆっくりゆっくり足音とうめき声が近づいてくる。姿を現した瞬間奥の方で銃声と悪魔の叫び声が森中に響いた。大きな音に驚いた悪魔は奥の方に向かおうとしたとき、背中を銃で撃った。
「グルルガアアアア!!!」
「奥村君! さっき話した方法で頼むよ!」
「はい!!」
俺と祓魔師さんはどちらも竜騎士で銃撃戦が始まった。現れたのは予想通り屍で次々と姿を現す。何故こんなところに屍がいるのかは不明だが今は相手を倒すことに専念する。屍も対抗して襲いかかってくるが容赦なく撃ち殺す。次々と倒れていく屍。10分もすれば数も減り、奥の方の×さんたちのチームの銃声が止んだ。
「(あっちの方が早かったか…。)」
「…よし! 終わったな。」
その後俺らも終わり辺りは静けさが戻った。怪我もなく片付きほっと肩の力を抜く。目の前に広がる屍の死体と体液はいつ見ても慣れない。悪臭に顔を歪めながら武器を直し×さんたちが戻ってくるのを待つ。1分もたたないうちに足音が徐々に近づいてくる。
「っ雪男!!!」
「えっ……。」
気がついたら俺は地面に倒れ込んでいた。誰かに押されたからだ。急いで眼鏡をかけ直し振り返ると屍番犬が1匹祓魔師と戦っていた。吃驚していると近くに1人静かに呻き声を上げながら倒れている人を見つけた。月の光には当てられ鮮やかに光る髪の毛。×さんだ。
「×さん!!」
「っ、馬鹿野郎。油断すんじゃねえって言ったろう…。」
それは俺もだけどな、と苦笑いする×さん。すぐに駆け寄ると×さんの表情は険しかった。汗が大量に出て呼吸が荒い。仰向けにすると手がお腹を庇っているように置いてある。手を優しくどけると屍番犬にやられ腹はえぐられていた。血の気が引くのを感じた。
「こ、んなもん慣れてる。お前は早く、加勢に行ってこい。」
「何いってるんですか!! 今すぐ処置しないと…!」
「はっ、自分の状況わかってんのか…。お前みたいな奴にまかせ、られるか…。」
手、震えてんぞ。×さんに言われ自分が恐怖に手が震えているのに気付いた。こんなときに何やってるんだ俺は!!目の前の×さんは薄く開いた瞼から俺の顔を窺う。どうしても震えが止まらない。
「まだ、医工騎士なりたてにゃ、実戦での対応は、難しいかったかあ…。」
「っ。」
×さんの言葉ではっと我に返る。どくどくと血を流す×さんを前に考えている暇はない。早く、早く、早く!!
目が覚めるとそこに空はなく白い天井があった。ぼーっとしていると昨晩のことを思い出しがばっと起きあがる。周りを見渡すと病院の中ということがわかる。そして自分はソファに寝かされタオルケットがかけられてあった。
「(どういう、ことだ…?)」
混乱し夢だったのかと思ってしまう。だが、自分の手には赤い血が乾燥しこびりついている。×さんを治療したときについた血だ。途中までの記憶はあるが治療を終えた後の記憶がない。どういうことだ…。
「口開いてんぞ。」
「!!!」
振り返ると病衣を着て点滴を持っている×さんの姿。眠たそうに欠伸をかいてる姿を見て一瞬固まるが、病衣から覗く腹部の包帯に現実に戻される。
「×さん、俺!」
「あーもう何も言うな。言いたいことは大体想像つくから。」
動物を宥めるかのような適当さにカチンとくるが相手は怪我人なのでぐっと抑える。血が足りてないのか顔は青白く隈ができている。やつれている×さんを見て心が痛む。俺のせいで…。
「…なんて顔してんだ。いつものポーカーフェイスはどうした。」
「…逆にあなたは何故そんなに明るいんですか。死ぬかもしれなかったんですよ?」
「こんなもんあるのが当たり前と思っとかないとこの先もたねえよ。」
手に着いている血を無意識で取っていると行き成り頭に触られた感触に襲われる。吃驚して顔を上げると×さんの手が頭を撫でていた。あまりにも優しい撫で方に体と思考が固まり堪能してしまう。
「次またドジったときは、頼むぜ? 天才ビビりくん。」
「は、い…。」
思わず返事をしてしまった。去って行く前に見た×さんの笑った顔は、父さんに向けたような綺麗な顔だった。どくんどくん。心臓に大量の血が流れ込むのがわかる。
好きだったんだと、いま気付いた。
(次はあなたを傷つけないように、強くなります。)
(そして、あなたに認められたら、俺の告白、聞いてくれますか?)