不運はつきもの。

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「ごめん…ごめんなカイト…。」

「…何故そこまでして謝る必要がある。俺が勝手に追いかけたんだ…だから簡単に頭を下げるな…。」

「カイト…やっぱり好きだ!!! かっこいい!!! 抱いてくれ!!!」

「っうるせぇな!! 耳元で大声を出すな!!!!」


エースと。


はぁとため息をつくと、先ほどより大きな白い息が目の前に広がる。この寒い洞窟に入らざるを得なくなったのも、目の前でニコニコ笑っている悪魔基、エースのせいであった。

1時間前。2人は冬島にて壮大な命を懸けた鬼ごっこを繰り広げていた。人は住んでいないのであろう、雪は自然と降り積もり人が踏み入れる場所などなかった。たまたまというべきか、海上でエースを発見したカイト一行は捕獲するべく恒例の死の追いかけっこが始まった。白ひげ海賊団の仲間はいないようなので、カイトには好都合であった。ただ遊んでいるかのように逃げるエースに、不運が起きないことを祈る部下だったがその期待は大きく裏切られるのであった。




「イマイ少将! さすがにこの吹雪の中進むのは無理です!」

「火拳の船で待ち構えていたほうが確実ですよ!」

「雪じゃあいつの炎も威力は減る…作戦は多い方が良い。お前らは待機してろ。俺は奴を捕まえてくる。」

「少将〜〜〜!!!」

吹雪で視界が悪い中進むカイトに、エースは姿を現した。そして1時間後、山奥へと進みすぎたせいかほとんど前が見えなくなったところでエースは洞窟へと逃げ込んだ。もちろんカイトも同様に。とうとう追い詰めたところで入り口から大きな音と共に光がなくなった。真っ暗になった状態でわかったのは、雪のせいで入り口が塞がれてしまったことだった。

「なっ…! 完全に塞がれた!」

「暴れすぎたのかもな〜雪崩までもないが、ある意味運よかったんじゃねぇか?」

「な訳あるか! びくともしねぇ…おい火拳、お前の能力なら溶かせるだろ。」

「う〜ん実はもうくったくたでこれだけの雪はきついかも。」

「はぁ…そうか。外も荒れていたからな、時刻が22時…日が昇れば少しはマシになるだろう。一時休戦だ。」

「そうだな。(ま、くたくたなんて嘘だけど。こんな滅多にないチャンス…カイトと一夜を過ごせるんだ…あ〜楽しみだな!)」

こうして、2人は洞窟の中で日が昇るのを待つことに。入り口付近は寒いのでなるべく奥へと進むと乾いている場所がありそこに腰を落とす。

「…あぁ俺だ。聞こえているか? 洞窟に閉じ込められてすぐには動けそうにない。お前らは引き継ぎ待機してろ。」

「"それは大丈夫ですが、火拳は…。"」

「俺と一緒にいる。何か動きがあったら連絡する。」

「"一緒に!? 少将、絶対油断したら…"」

「おーいカイト! 少しだけど枝見つけてきたぜ!」

「大声を出すな、響くだろ。…じゃあまた連絡する。」

ガチャリときれる電伝虫に頭を抱える部下だった。
エースが持ってきた気持ち程度の枝に火をつけて暖を取る。と言っても元々洞窟内の気温は低いためその程度の焚火ではあまり効果はなかった。

「…おい、寒くねぇのか。」

「ん、まぁ人より体温は高いけどやっぱ寒いもんは寒いな!」

「はぁ、さすがにこの気温ならな…。ほら、これ着ろ。」

「は…、いいのかよ。カイトも寒いんだろ。」

「見てるこっちが寒いんだよ! 黙って着てろ!」

正義のコートは着せる気はないが、半裸で鼻先を赤くして笑うエースを見ると身震いが走り渋々スーツのジャケットを手渡す。まさかの展開に目をまん丸とするエースだったが、すぐに受け取り袖を通す。

「はぁ〜こんな良い服初めて着たぜ…。」

「ふっ、そっちかよ…っておい! 何嗅いでんだ! やめろ!!」

「いいじゃねぇか減るもんじゃないし。」

「そういう問題じゃなくてな…!! はぁ、もう良い。体力の無駄になる。」

「そうそう、あ〜腹減ったな。」

「お前…気楽だな…。」

ニコニコと白のジャケットを着たエースは全身でカイトの匂いを感じ、軽く興奮して熱くなっていた。燃やさないよう注意していると、焚火がほぼ消えかけていたのに気づく。燃やすものもない為どうしようと考えていたらカイトがギュッとコートを掴んでいたことに気づいた。よく見ると寒さで凍え、我慢しているのがわかった。エースはそれを見て考えるより先に体が動いていた。

「…おい、なんの真似だ。離れろ。」

「くっついてた方があったかいぜ。しかも俺体温高いし?」

「余計なお世話だ。前々から思ってたが、お前は距離感が近いんだよ!」

「いいじゃんかよ〜ほら、手だってこんな冷たい…。」

「っ触るな!!」

指に触れた途端手を叩かれ、洞窟内に音が鳴り響く。きょとんとした顔のエースにはっとするカイトだが、すぐにエースを睨みつける。

「忘れるな、休戦しているだけで俺とお前は敵同士。行動によっては攻撃とみなす。」

「はは、相変わらずガード固いな。頭もカッチカチに固いけど。」

「頭…?」

「休戦でもなんでもいいけど、こんな時は少しくらい助け合おうぜ。カイトが俺に上着貸してくれたみたいに、俺もカイトを助けたいんだ。凍傷で指が落ちるなんて嫌だろ?」

「…変な動きをしたらすぐに手錠つけるからな。」

「へへ。隣だと両手握りづらいな…背中からぎゅってしていい?」

「ダメだ、敵に背中は預けれねぇ。前に来い。」

「ええ〜前か…仕方ないか。」

「いいだろ、お前のが小さいし。」

「そんな変わんねぇだろ! 気にしてるんだからいうなよ!」

怒りがならカイトの股の間に座り込み、背中を預けるエース。手を握られるとなくなっていた感覚が戻っていきエースの温もりを感じ始める。この状況下で触れている部分から暖かさを感じ改めて目の前の人間が能力者ということを実感するカイト。一方エースはそれどころではなく、心臓が爆発する勢いのため先ほど同様間違えて燃えてしまわないように必死に抑え込んでいた。

「もう十分だ、離して良いぞ。」

「えっ!! い、いやだ! ずっと握ってないと危ないって!!」

「(何をそんなに慌ててるんだ…。)…わかったから、そんな顔するな…。はあ、お前本当に白ひげ海賊団かよ…。」

「誰にもこんなことするわけねーだろ…。あ! 親父の武勇伝聞くか!?」

「結構だ。」

「へへ…カイトの手、古傷だらけだな…新しいのもあるけど。」

「変に触るな馬鹿。」

「てかさ…カイトって男いんの?」

「…? どういう意味だ?」

「(あ〜この反応はいねえな。でもカイトに限って…。)じゃあ尻いじられてる心配はねえな!」

「尻…。」

その単語を聞いた瞬間握られていた手にぎゅっと力がこめられる。目を細めるエースにあの日のことを思い出し苦い顔をするカイト。

「なんか思い当たることでもあったか?」

「えっ、いや別に、大したことじゃ…。」

「ふーん…尻の中ぐっちゃぐちゃにされたのが大したことじゃないのか?」

「っ、なんでそのこと…、違う、何言ってんだお前…!!」

「目合わせろよカイト。されたんだろ? 顔真っ赤だぜ。」

カイトが気付いた時には繋がれていた手は離され向かい合う形に。鼻の先にいるエースはじっとカイトを見つめている。忘れようと頭の片隅に追いやっていたあの日の出来事がフラッシュバックしたカイトは、寒い洞窟内ということを忘れるほど顔が暑かった。反応からみるに何かされたことは一目瞭然でエースはどす黒い感情により心が乱れていた。

「誰にされたんだ? …まさかセフレ?」

「はあ!? そんなもんいるわけねえだろ!? ていうかこの話はもう終わりだ!」

「そんな簡単に忘れられんのかよ。相当良くされたんだろ、顔、可愛いことになってるぜ。」

「な、な、何言って…。」

「カイトって嘘つけないタイプなんだな!」

目線が合ったと思ったら、先ほどとは打って変わって二カッと笑うエース。だが、目が笑っておらずカイトは本能的に逃げ出したくなり後ずさろうとし腰を浮かす。それをエースが許すはずもなく勢いよく押し倒す。頭や背中の痛みをゆっくり感じる間もなく、エースに見下ろされ息をのむカイト。

「(何故こうなった? こいつ何を考えてる? 何がいけなかった? 最近よく見降ろされるな?)」

「あ、すまねぇなカイト、痛かっただろ?」

「え?」

「男相手は初めてだけど、俺なりに勉強したからな! すぐに気持ちよくしてやるからな!」

「…え?」

脳内がパニックになった状態で顔を引きつらせていると、覆いかぶさっていたエースがカイトにキスをする。驚いて一瞬固まるがすぐに押し返そうとするも体を固定されエースの力強さに押し負ける。怒鳴ろうと口を少し開けた隙を狙い舌を入れられる。洞窟中に響き渡る粘着音に2人は体を熱くする。

「ん、あっ! っおい、離せ!!」

「へへ、そんな顔して言われてもな。ほら、さみぃから手繋いでおこうな。」

「くそ、やめろ、んっ、んんっ、あっ、舐めるなっ! 火、拳っ…!」

「(あーめっちゃ声くる…可愛い…名前で呼んでくれたら理性なくなってたな…。)」

再度口内を荒らし、右耳を舐めては甘噛みを繰り返しされ体を揺らす。手は握られ足も固定されており容易に動けないカイトはズブズブと快楽に落ち始める。暖かい吐息が耳や首にいつも以上に感じゴリっと奥歯を鳴らす。

「はぁ…手、動かせねぇしな…服、燃やすか噛みちぎっていいか?」

「バカか!! 許す訳ねぇだろ!」

「大丈夫だって、すぐあったまるから。カイトだってあったまりたいだろ?」

「お前が言うと火ダルマになりそうなんだよ! さっさと手離せ!」

「仕方ねぇな〜脱がせるからじっとしと…け…あれ?」

手を離した途端目の前がぐらっと揺れるエース。左手首から伝わる冷たい感触に目を向けると手錠。しまったと思った時には遅く、カイトの腹上に倒れ込む。起き上がったカイトはエースを見ながら口を袖で拭い、エースを払い除ける。

「そんな〜これからだったのに…。俺の息子まで萎れてる…。」

「お前が大人しくしていたらこんなことにはならなかったな。自分を憎むんだな。」

「ええー! カイトだって寒いだろ? 俺の能力なしじゃ凍えるって。」

「うるさい、もうお前の言うことは聞かん。」

「そんなー! …あんなに熱くなって気持ち良さそうに喘いでた癖に…。いでぇ!!」

「黙ってろ!!!」

頭にたんこぶができたエースとカイトはそのまま朝になるのをじっと待った。









「あれ…いつの間にか寝ちまってた…。ん?」

顔を上げるとエースの肩に寄り掛かったカイトが規則正しく寝息を立てながら眠っていた。顔の近さに吃驚したエースは声を出しそうになるもぐっと堪え、寝ているカイトを観察する。よく見ると2人はすっぽりとコートに被さっているのに気づきふっと笑う。

「(優しくすんなよ、これ以上惚れてしまうだろ…。寝顔も超可愛い…てかこの状況が奇跡だよな…。あ。いいこと思いついた。)」

「……、ん、んんっ、ふっ、っは!」

「おはようカイト…いだっ!!」

「てめぇ…普通に起こせねぇのか!!」

「んだよ〜キスで起きるとかロマンチックじゃん? カップルなら当然だろ?」

「いつからカップルになった俺らは!」

目覚めの悪さに頭を抱えるカイト。外を確認しようと入り口の雪に触れると、溶け始めてる感触がわかり力を入れると穴が空き、外からの光に目を細める。丁度朝日が昇っており、雪も止んでいた。力づくで雪をどかしなんとかでられたことにほっと息をつく。

「さぁ、火拳。お前の自由もここで終わりだ。牢獄にぶちこまれる気持ちはついたか?」

「カイトにぶちこまれるなら本望だかよ、まだ俺には早いかなーなんて。」

「往生際が悪い…はぁ!? てめぇいつの間に手錠外しやがった!!」

「近くに鍵落ちてたぜ。相変わらず運ねぇなーカイト。」

笑うエースはそのまま来た道を走っていく。一瞬脳が追いついていなかったカイトだったがすぐにエースの後を追う。

「ん…? あれ火拳だ!! おい! 全員起こして来い!!!」

「お、俺の船守ってくれてサンキュー。」

「待ちやがれ火拳ー!!!」

「じゃあなカイト! また会おうなー! 次は俺から迎えに行くから!」

「何言って…。」

「逃げられないように、な。今度はもっと熱い夜にしようなー!!」

「は、はぁ〜!? …とりあえず全員持ち場に…いや、もう間に合わないか。」

「しょ、少将…あの…あいつに何されたんですか!?」

「今度はもっと、って…もっとって!!」

「え、いや、別にこれといって何かしたか…?」

「少将慣れすぎて気付いてないことに最近気付いたんですからね!!」

「じっくり聞かせていただきますから…!!」

「な、なんでだよ!! くそ、これも全部あいつのせい…覚えてろよ火拳!! 絶対捕まえてやる!!!」






「んーどう攻めるか…そろそろ親父にも相談してみっか。」


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