不運はつきもの。
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※ヒナ、たしぎ、女海兵は腐ってます。先に番外編を見ていただけるとスムーズに見れるかと。
「お疲れ様カイト。」
「ヒナ! お疲れ。本部に戻ってたんだな。」
「ええさっきね。どう、今日ディナーでも?」
「もちろん。俺でよければ。」
ヒナと。
いつもの酒場と違い、落ち着いた雰囲気の店で食事をする2人。カランとグラスを合わせ一口飲んだ。ヒナはアルコールが入っているが、カイトはただの炭酸水。酒に弱いことを自覚しているカイトは同期といえど女であるヒナに迷惑はかけられない為自粛した。他愛もない会話と美味しい食事を楽しんでいると、ヒナが話題を変えてきた。
「…カイト、最近大丈夫?」
「え、何が?」
「色んな噂を聞くわ。ヒナ心配。」
噂…となればカイトの悩みのタネであるあのセクハラ男たちのことであろうと、少し遠い目をした。今まで長いことこの行為をされてきたが、ヒナには相談していなかった。というか誰にもしていなかった。理由はいくつもあったが、一番はカイトのプライドが許さなかった。
「大丈夫。本気で危ないと思ったことはないし、もしやられそうなもんならやり返すだけだ。」
「(多分カイトのやる、とあいつらのやるは意味が違ってると思うけど…。)それでも何かあってからじゃ遅いわ。何かあったら力を貸すわ。」
「ヒナ…ありがとう。」
じーんと感動したカイトはニカっと善意に溢れた笑顔を見せた。いつもより少し幼く見える愛おしいカイトの笑顔を何人が見たことあるだろう、と優越感に浸るヒナ。少将にまで上り詰め、下の者への手本となるよう上司らしくキビキビ動くカイトの気を許した相手はヒナとスモーカーくらいだろう。
「…ねぇカイト、聞きたいことがあるんだけど…。」
「まだ何かあるのか?」
「…スモーカー君のことなんだけど。」
「スモーカー? …まさかあいつまた何かやらかしたのか?」
「いや、まだその件については大丈夫よ。連絡着てないから。そうじゃなくて、スモーカー君のこと、どう思う?」
ヒナの言葉にぽかんと口を開けるカイト。どう、と言われても年単位で過ごしてきた奴を今更…と頭を捻らせる。ヒナの鋭い視線が突き刺さってきて、冗談じゃないことは見て取れた。
「…問題行動さえ目を瞑れば海軍にはもってこいの性格だし、信頼あるし、信念が通ってるし、頼もしいし、真っ直ぐだし、世話好きだし、俺より強いと思うし、優しいし…まだ言わなきゃダメ?」
「いえ、充分よ。逆に困ってる点は?」
「…最初も言ったけど問題行動を直して欲しい。もう少し上の言うこと聞けば俺の階級までこれるだろうに…頭悪いわけじゃないんだけどな。後もっと葉巻の数を減らして欲しい、吸いすぎだ。」
「ふふ、そうね…ありがとう。」
ヒナとのスモーカートークは続いた。今はこの場にいない男に手を焼いていた2人だからこそ、話は盛り上がった。ふと、ヒナを見ていたカイトはある仮説が脳内を巡った。
「(もしかして…ヒナ、スモーカーのこと好きなのか? もう2人も良い年だし全然おかしくないし、何よりスモーカーのことをよく知ってる…。ここは同期のよしみとして株を上げないと…!)」
「どうかしたカイト?」
「あ、いや別に。…そういえば、俺の誕生日に絶対上手い酒くれるんだ。俺が酒好きなのに飲めないからって、言ってはくれないけど一緒に飲んでくれるし、案外記念日とか気にするタイプだよなー。」
「(多分それはカイトだけじゃ…誕生日プレゼントなんて貰った事ないわよ。しかも完全に飲み相手は自分だけという独占力…。)」
「たまたま海賊討伐に一緒に行ったんだが、俺が部下を庇って脚撃たれた後、スモーカー自分の部下の力不足って毎晩怪我の様子見に来てさ。何かあったらいけないって一緒寝てた。さすがにベッド狭かったな〜心配しすぎって笑った笑った。」
「(す、スモーカー君…そこまで…でもここまでやったのに気付いてもらえてないのね…ヒナ不憫。)」
「もう塞がってるけどちっちゃな傷できちまって、今でも見せろって言ってくるんだよ。内太ももだからさすがに恥ずかしいからやめろって言ったら、酔ったあと確認してるっぽい。朝傷が薄くなったやら変わってなかったやら言ってくるから。スモーカーの人間味感じるよな〜。」
「(に、人間味!? 変態の間違いじゃない!? なんでそんなに平然と言ってるのカイト…! あなたの周りの奴らと対してやってること変わってないわよ!? 気を許したらここまでしても…。)」
同期の真実に冷や汗を流す一方、同期の能天気さにさらに冷や汗は増す一方だった。だが、ヒナはこれを待ち望んでいたと言っても過言ではない。何も手を出さないスモーカーに苛々していたので、スモーカーの想い人である本人に直接聞いてみたらスモーカーなりに行動には移しているようであった。残念なところカイト自身には全く気づかれていないようだったが。
「(ふふ…でも美味しいわ。これはたしぎ達に良い土産話ができたわ。あとはスモーカー君がお酒に頼らずカイトに告白をすれば…。)」
「ほんと、なんで女できないんだろうなスモーカーって。仕事熱心すぎるだろ〜。」
「(…前言撤回。お酒の問題じゃないわね、まずは本人に自覚がなさすぎる…。いけないわ! カイトとスモーカー君が一番燃える…いや、お似合いの2人なんだから!)」
「(ここまで言えば、意外にスモーカー君って私のこと大事にしてくれそう…? って思われるだろ! ヒナとスモーカーか〜お似合いだと思うけどな。スピーチは俺がしたいな〜。)」
それぞれの思いを言葉にして伝えた2人の夜はもうそろそろ幕が降りるのであった。後日、検診の為服を脱いだカイトの内太ももにある薄い怪我を見たナースが、先日ヒナに聞いた話を思い出し勝手に妄想を働かせて倒れたのであった。そして女子達の間でその怪我をネタにあることないことを妄想し、スモーカーとカイトの応援をひっそりと始めるのであった。
「おっ、久方ぶりだなスモーカー。」
「よぉ、相変わらずだな。…なんだか妙に見られてる気がするのは気のせいか?」
「そうか? またなんかやらかしたんじゃないの?」
「あぁ? ぶん殴られてぇのかてめぇは。」
「あ、てかさ〜スモーカーさ、俺の太ももの怪我未だに見てんの? 酔って寝てる時。」
「…だからなんだよ。見られて減るもんでもないだろ。」
「いや別に気にしてるわけじゃないんだけどさ〜。傷の近くに毎回数カ所キスマーク? って言うんだっけ。あの赤いのつけるのやめてくれない?」
「! 気付いてたのか。」
「なんでするんだよ。誰も見ないからいいけど、消えるまで誰かに見つからないか心配なんだよ。」
「…つけた時のお前の反応が面白くてな。」
「はぁ?? まさかそんな理由で見てきたのかよ! 恥ずかしいんだからなほんと!? 次は絶対にスモーカーより先に寝ないからな!」
そんな会話をしながら廊下を歩いていく2人。一部始終聞いていた海兵3人はすぐさまヒナの元へ走っていくのであった。
「ヒ、ヒナさん!! やばいです! キ、キスマークが!!」
「本当に彼は犯してないんですか!? そのような場面で手を出さないのは男としてどうかと!」
「いや、正式に付き合ってから手を出すという紳士なのかもしれないです…現に我慢してるのであるし…。」
「とにかく3人とも落ち着きなさい! 1人ずつ喋りなさい!」